heldioリスナーに届けるしおのはなし#6 令和6年5月11日 草や木の根ばかり食べていると…

 #6の大岡昇平「野火」において、草や木の根をかじりながらジャングルをさまよった人が意外にも早く亡くなってしまうことについて触れたが、それについてきちんと述べたものがあったのでご紹介する。引用元は、松本永光著「塩屋さんが書いた塩の本」である。
 著者の松本さんはこの本を執筆した当時、伯方塩業(株)専務取締役。(のちに社長に就任)伯方塩業(株)といえばあのTV CMでお馴染みの「伯方の塩」を製造元。実は「伯方の塩」の誕生の経緯を知ることは、戦後日本の製塩史を知ることでもあるのだが(いつかきちんとお伝えしたい)、それはともかく、著者の松本さんは塩のプロフェッショナル。この本にはその知識が余すところなく且つ誰が読んでも分かるように書かれている。
 その本の中に、「飢饉と塩」と題して次のように書かれている。

 江戸時代には各地でたくさんの飢饉がありました。飢饉のときに死ぬ人が出るのは、食べる物がないためばかりではありませんでした。何日も穀物を取らず、また塩をとらずにいるところに、山や野原の草や根をむさぼり食べるために、カリウム過多の中毒になってしまうことが少なくなかったとされています。…塩は草ばかり食べるときの毒消しになるということで、山野を歩き回って苦行を積む僧侶修験者たちも竹筒に塩を入れていつも持っていたそうです。

松本永光著「塩屋さんが書いた塩の本」

 先日の話に即して述べると、空腹を満たすために草や木の根ばかり食べていた場合、餓死する前にカリウム過多で亡くなってしまうことがある、ということになる。カリウムとナトリウムの関係を考えれば、水と塩だけを摂っていた方が生き延びる可能性が高いことがある、ということだ。

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