heldioリスナーにお届けするしおのはなし#1

 徳川家康の晩年の側室に「お勝の方」がいる。聡明かつ勇敢な人で知られ、関ヶ原の戦いなど主要な戦場にも同行して家康を助けたともいわれている。そのお勝の方の聡明さを表す一つのエピソードをご紹介しよう。
 家康が将軍の座を退き、駿府で余生を送っていたときの話だ。家康はよく古株の側近たちを集めて酒を飲みながら問答を楽しんでいた。あるとき家康が「世の中で一番美味いものはなにか?」とお題を出すも、側近たちから気の利いた答えが返ってこない。そこで、家康はそばにいたお勝の方に答えを促すと次のように答えたという。
 「世の中で一番美味しいのは塩でございます。山海の珍味も塩がなくては味を整えられません。」これには一同「なるほど」。そこで家康はつづけて「では一番まずいものはなんじゃ?」と訊く。するとお勝の方はすかさず、「それも塩でございます。どんな美味いものでも塩が過ぎると食べるにたえませぬ。」と返し、その才知に一同の者が感じ入ったとか。
 日本において味具合を表現する言葉に「塩梅」がある。塩が味の良し悪しの決め手となるからこそ生まれた言葉なのだろう。

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