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【エッセイ】繋がる心

 変わらない優しさをくれる、大切な友達に向けて私の気持ちを此処に残す。

 私と毎日のように連絡を取り、ささやかで他愛ないメッセージをくれる人。週一回、会話する時間を取ってくれて楽しく話をし、時に悩みを聞いてくれる人。降るように「ありがとう」を伝えたい。

 私は今まで、一人でも平気だと思っていた。ただ、厳密には、人は人と関わり合って生活をしている。私の触れる本も紅茶も音楽も、人が作ったものだ。その他にも多くの物事は人に支えられて、間接的に私を支えている。しかし、その事実に助けられていても、私は一人きりという認識が私の根っこのところにいつもあった。

 昨今、自宅で過ごす時間が多くなった。友達と会う機会も減った。私は二年前にスマートフォンを持ったが、その時はコミュニケーションツールとなるアプリをほとんど入れていなかった。それでも日々に満足していた。

 しかし、最近になって私の心に変化が生じた。さびしい、という感情が生まれた。元々、その感覚が一切無かったというわけでは無い。だが、近頃になって突き上げるようにその感情が生じ、「誰かと話したい」と思うようになった。

 けれど、遠慮があった。皆、仕事や家庭などで多忙だという前提が昔からの私の中にあった為、「電話したい」「話したい」「さびしい」という自分の気持ちを友達に伝えることは出来ずにいた。

 そんな折、私は勇気を出して一人の友達に「お話したい」という本音を伝えてみたのだ。すると「良いよ」という返事が返って来た。別に何か話したい内容が私にあったわけでは無い。ただ、日常を過ごしている中での嬉しかったこと、悲しかったこと、そういった出来事やそれに纏わる私の思いを聞いてほしかったのだ。そしてまた、友達の近況や思いも聞かせてほしかった。友達との電話は確かに私を嬉しくさせ、私の心を温めた。

 私は恐縮しながらも、自分の気持ちを伝えた。日々がさびしいこと、他愛ないことでも誰かに伝えたいということ、友達と話したいということ。友達を困らせるかもしれないと思ったが、予想に反して友達は言ってくれた。良いよ、聞くよ、と。メッセージ送ってくれたら読むし、書ける時になるけど返事を書くよと。休みの日で良かったら電話も出来るよ、と。私はまるで夢でもみているようだと思った。

 その日から私は、本当に他愛ないことでも友達にメッセージを送るようになった。たとえば「スーパーでいちごを見たよ。食べたくなった」とかだ。そんな独り言めいたメッセージは胸に秘めておくべきものなのかもしれない。だが、私はこういったメッセージを友達に送り、伝え、それを友達が読み、返事をくれるという流れを日々に作ることで、確かに生きていく力を貰ったのだ。

 そんな大袈裟な、と人によっては思うかもしれない。或いは、私が一人で立つことが出来ない、弱い人間なのだろうと思うかもしれない。しかし、そうではない。極論を言えば、メッセージの中身は何でも良かったのだ、私にとっては。勿論、自分のことを友達に知って貰える喜びもある。そして、それ以上に重要なことがある。大好きな友達と私の間で、日々においてメッセージを遣り取り出来るという現実だ。その当たり前のようで決して当たり前では無い現実世界が私の目の前に広がったことで、私は私の日々に起きる事柄を受け止め、思考し、選択して行くという、これもまた当たり前のことを積極的に出来るようになったのだ。

 また、趣味も、家事もだ。私にとってすべきこと、したいことの全てが、まるで数日前と違って私の目と心に映った。今日一日頑張ったことや、頑張れなかったこと、そういったことも友達に伝えて良いという現実を貰ったことで私の世界は輝き始めた。それは本当に嬉しく、活力になった。

 私は友達に感謝の意を込めて「ありがとう」という言葉を良く伝えていた。友達からは「それ沢山言うよね」と言われていた。多いかなと思った私は、ここしばらくはあまり「ありがとう」を言っていないように思う。私は「ありがとう」をまた改めて伝えて行きたいという思いと共に、私の根幹にある感謝を忘れずにいたいと思う。私の蒔いた種から芽が出て花が咲いたのは、友達が水遣りをしてくれたおかげだと思っている。

 一人で過ごす時間が多くなっている昨今、自分と誰かを繋げて日々を生きることが今、大切なのではないかと私は思う。会うことが難しくても、ささやかなメッセージを交わすことがその人にとっての根っこと成り得る場合もある。仕事でも家事でも趣味でも、何をするにも活力は必要だ。それを自らの中と、大切な誰かの中に見出すことは決して大袈裟なことでは無いだろう。

 私はこれからも友達のことをずっと大切に思いながら、自分のすべきことと向き合って過ごして行こうと思う。私の足元を見て、そして時に遠くの景色を見ながら。


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