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【エッセイ】思いの行き先

 ――これは、あなたと自分に書く手紙。


 いなくなった人のことをいつまでも思うことは愚かなことだと誰かが――或いはあなたも――笑うかもしれない。それでも季節が移ろった今も私はあなたのことを考えている。あなたと出会った夏は過ぎ去り、秋も終わった。こうして冬を迎えた今、あなたは何を考えて何をしているだろうと、もう思っても仕方のないことを私は思う。

 出会ったことすら間違いだったのかもしれないと思う日もある。こうして音信が途絶えるくらいなら、最初から出会っていなければ全ては正しく、問題なく廻っていたのかもしれない。


 あなたの言葉の全部を信じられるほどには私は子供ではなかったし、少女でもなかった。あなたに嫌われたくなくて、あなたの言葉の全部を信じた振りをしていた。そんなことすらもあなたは見透かしていたかもしれないけれど。


 メッセージを送っても読まれることなく、電話をかけても出てくれることもなく。ああ、もう私とあなたは終わった関係なのだと知った。だけど、思い当たることがなくて悩んだ。私があなたの何か気に障ることを言ってしまったのかと苦しくなった。思えば、メッセージも電話もあなたからで、私からの発信はほとんどなかった。こんな言い方は間違っているかもしれないけれど、あなたにとって私が都合の良い相手でいられる限り、私とあなたは続いて行けると思っていた。そんな臆病な私の気持ちから私はあなたと話をしていた。


 あれから数ヵ月が経った今でも、他愛ないあなたの言葉を私は覚えている。あまり食にこだわりがないこと、映画を観ることが好きなこと、頑張る人が好きなこと。私はあまり頑張っていないようにあなたには映ったようで、もう少し頑張りなよと言われたね。


 あれから私はあの時よりも頑張っているかもしれない。


 もう二度とあなたと話すことはないのかもしれない。九十九パーセント、ないかもしれない。それでもあなたの連絡先を消せない私のことを誰か笑ってほしいとも思うし、誰も笑わないでくれとも思う。もう二度と会えない人のことを思う私は幼く、弱く、愚かなのかもしれない。それでもあの人が幸せであると良いと思う。


 もうすぐ春が来る。あなたの故郷でも桜は咲くでしょうか。


 あなたがいつも元気でありますように。

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