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匙投げ小説執筆法 9.セリフについて

セリフについて


⑴セリフの意義

たしか黒澤明監督が、"サイレント映画のつもりで脚本を書く、どうしても必要な場合だけセリフを入れる"という趣旨のことをおっしゃっていました。監督らしいストイックな姿勢です。

ただ、小説においては、そこまで厳密でなくても良いかと。というのは、セリフの極端な少なさは、「売れない」と編集者が判断する材料になるからです。セリフはアクションが近いことを知らせる指標という側面もあります。


⑵セリフの書き方

しかし、無駄なセリフが多くても読みづらい。テレビドラマの長ゼリフは見せ場になりえますが、小説ではそうはいきません。

あなたの小説が漫画化される……と想像してください。そのセリフは、ふきだしに収まりきるボリュームでしょうか? セリフは1行以内の省スペース志向を心がけましょう、おのずと無駄のない言葉を選ぶようになります(実際のコミカライズのときも有利です)。もちろん、展開上どうしても必要なセリフであれば2行でも3行でも書くべきです。

小説におけるセリフの感情表現は、いちいち地の文で説明を補足するよりは、可能なかぎり話し手の言葉の選び方、考えの述べ方で表現しましょう。感情の伝わらない会話は貧しいです。期待した効果が盛りこまれるまで磨きあげねばなりません。

テクストとサブテクストを用いましょう。テクストは文章、キャラが口にしたセリフです。サブテクストは行間、キャラがあえて言葉にしないこと、あるいは意識にのぼらず言語化できていないことです。

テクストからサブテクストが浮きあがってくるのが良いセリフです。サブテクストにすべきことを、そのままテクストにしてしまわないよう注意しましょう。サブテクストの無いセリフは、浅く薄っぺらです。テクストとサブテクストの二重構造を意識して書いてください。

イメージしづらいですか? 手っとり早いのは、キャラを沈黙させることです。いちばん肝心なことはストレートにいわせない、はぐらかす、正反対のことをいわせる、遠回しで間接的な表現にする、メタファー(暗喩)を使う、あるいは行動で示す。口数が増えれば増えるほどキャラは軽薄に映ります。地の文を書くのに慣れないうちは全てをセリフで説明したくなりますが、ぐっとこらえましょう。


⑶「……」は横着

これはマンガ大国日本独自の文化のように思いますが、初心者のうち乱用してしまいがちなのが、「……」という無音のセリフです。漫画であれば絵がありますが、小説には無い(ラノベには挿絵がつきますが、むろん全てのシーンではありません)。書き手はその沈黙の間の光景やキャラの感情を理解しているのでしょうけど、読者はわかりません。「なんで黙ってんだコイツ?」と思っています。もし「……」と書きたくなったら、あなたの頭のなかにある情景や、キャラの表情や感情を地の文で書いてください。慣れていけば描写力がめきめき向上します。

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