見出し画像

2023年読んで面白かった本23選+α

2023年は、オーディブルを導入したことによって、かなり楽に読書がたのしめるようになったのが、大きな事件でした。
2024年は、読むのを減らして、もっと書く時間を増やします。
暗いミステリ小説をもっと書いていきたい。
各社依頼待ってます。


▼フィクション

『傲慢と善良』

結婚の直前、彼女が失踪する。それを追いかける男。出会い系アプリで出会った彼女の知らない面が、次第に明らかになっていく……。
結婚という儀式の背後にある、自意識を掘り下げていく手付きは解剖実習のよう。目を背けたくなるグロテスクな心理のひとつひとつを、冷静に読者の眼前に並べていく。
そして二部、「え、これまだ続くの?ここで終わったほうがよくない?この流れだと後半の第二部いらないんじゃねえかな……」と思ったが、読み終えると「この2部があってこそ、辻村さんの小説だ」と確信させられる。
文句なし、今年よんで一番おもしろかった本。

『金は払う、冒険は愉快だ』

去年のおれのベストエッセイ本『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』に続いて、素粒社がまたいい本を作ってくれました。
私小説と書かれているので、虚実はさておき、この文体。舞城王太郎とかブコウスキーとか中原昌也とか、そういった作家が好きな人なら絶対に好物。
暴力的で口の悪い古道具屋が悪態をつきながら送る日常のなかで、神様が降臨したかのようなきらめきを放つ奇跡の瞬間が切り取られてる。

『店長がバカすぎて』

これ、絶対にオーディブルできいてほしい!朗読の人がうますぎる!
朗読がうまいってなんなんだ!?と思われるかも知れない。聞けばわかる!絶対に自分で読むよりも朗読で聴いたほうが面白い。ランニングしながら聴いてめちゃめちゃ笑ってしまい不審者になってしまった……。
コメディ小説としてもいいのだけれど、張り巡らされた伏線と伏線、そして伏線回収がうまい。
タイトルからしてB旧作品だろうと思われがちだが、「カメラを止めるな」みたいな掘り出し物。続編も最高でした。


『黄色い家』

まさかクライムノベルで来るとは、という意外性と安定の文体。
そこにいる人のディティールをつきつめることで浮かび上がる時代性。作中のすべてに「あの頃」とテーマ性が備わっている。
「ラッセン」とかあまり文学でみかけない文字列がでてくるけど、よくかんがえると90年代にラッセンの絵は「絵画商法」に使われ、ローン問題と結びついていたし、必然性しかない。
時代はちがえど宮部みゆきの『火車』とおなじく、金と女性の自立という問題意識は通底しており、2020年代の今ホストの売掛問題などにもつながっている。

『汝、星のごとく』

男女の視点で出会いと別れまでが交互に描かれる恋愛もの。
人生を解像度高く描くだけで、こんなおもしろい小説になっていまうのがすごい。「一体どうなるんだー!」と、ひさしぶりに感情移入して一気に読んでしまった。
前述した『黄色い家』同様に、やはり女性と経済的自立の問題があわせて語られることも興味深い。
メジャーすぎる本って「わざわざおれが読まなくてもいいかな」と思うのだけれど、最近はそういう自意識を捨て、「おもしろそう」という欲求に従うようにしている。

『ザリガニのなくところ』

オーディブルで聴いたのだけれど、池澤春菜さんの朗読がとてもよかった。
メロドラマかな?と思っていると、実はミステリでもあり、「あれ?そこどう書かれてたっけ?」と思って記述のフェアネスを確かめて「そういう仕掛けか」と納得。まんまと騙されてしまった。
作中では少女の、知識と教育による「女性の自立」が描かれるが、これは、話題になったノンフィクションの「エデュケーション」、

でも描かれている。
なぜこのパターンが好まれるのかというと、それが欧米の理想的なビルドゥングスロマンだからじゃないだろうか。日本ではそうした「過程」より、結論である「経済的自立」までをショートカットする傾向がある。
教育はたしかに自立には不可欠だが、時間がかかる。その時間コストを支払えない人々のほうが多いからではないか。
貧困のなかでタフネスを失わなかったひとと、失っているひとの差は埋めがたい。
そういえば、『四つ子ぐらし』、

も、自立を扱っていた。
中学生の自立支援プログラムで選ばれた四人が、じつはこれまで離れて暮らしていた四つ子だった!五等分の花嫁……じゃなくて、四人の「家族」で「自立」へむかう。
序盤でひとりで暮らすことの難しさが強調され、家族の共助でそれをのりこえていく。
自立よりも適切な依存が重要だという意見もあるだろうが、自立をどう考えるかに作家性が出てくる。

『湯布院寄行』

鈴木清順の「ツィゴイネルワイゼン」とか、谷崎潤一郎とか、日本的な湿度が高い幻想譚が好きなのでこれはとてもよかった。
とことんウェットで、じめじめしているので、人を選ぶかもしれない。でもすき。


『植物少女』

静謐な病室とホルマリンの匂いと残酷な感情のてざわりが、小川洋子の『妊娠カレンダー』を思わせるが、本作のほうはさらに幻想的。

詳しくは以下の動画でも語り合っているので参照を。


『地雷グリコ』

デスゲームものはもはや定番だが、この本のゲームで人は死なない。
学園青春デスらないゲーム小説(この時点でメタってて憎い)。
ゲーム内容はシンプルイズベストなバランスで、タイトル通り「地雷グリコ」にはじまる5つのゲームをやる。ゲームタイトルがまた秀逸。
「坊主衰弱」
「自由律じゃんけん」
「だるまさんがかぞえた」
「フォールームポーカー」
もうタイトルだけでアイデア勝ち。こんなん『アンデッドガール・マーダーファルス』に続いて絶対にメディアミックスでしょ……(憎い)。
ゲーム好きならマスト!


『線は僕を描く』

映画化もした作品。水墨画に魅了された若者たちの青春物語。
ストーリーもいいのだけれど、8章、車の中のシーンで、光にてらされたヒロインの表情のうつろいを描写したすばらしい文章があって、そこがとても印象にのこっている。


『墨のゆらめき』

ホテルマンと書道家のバディもの。タイトルの伏線回収にまんまとやられて「そういうことだったのかー!」と納得。男二人のいいかんじの空気が心地よかった。

『絶縁』

各国の作家が同じテーマにそって書いた小説をまとめたアンソロジー。
村田沙耶香「無」だけのために買ってもいい。
突如若者に舞い降りた「無」ブームは加速していき……。
コンビニ人間よりも好きかもしれない。SFとしても最高。

『名もなき毒』

今年、宮部みゆきの「杉村三郎シリーズ」をはじめて読んで、唸りながらため息をつきまくった。
小説がうますぎる。
人間を描くとはこういうことだったのかと、いままでわからなかったことがわかってしまった。
平凡な人間などいなくて、どんな人間でも血と意志が宿っているというあたりまえのことを紙の上でやる。ネテロ会長の正拳突きみたいな圧倒的な神業に、とにかくすげえとしか言葉がでてこない。
このシリーズ本当に良い。

『とんこつQ&A』

遊園地のティーカップにのってチルしてたら突然それが時速200キロで走り出すみたいな不穏すぎる小説。
マジで最初、ユーモラスでほほえましい小説だとおもってたんですよ……でもだんだんサイコホラーじみてきて、最後には異次元に放り出された。ぶっちゃけ、こんなタイトルの小説がおもしろいはずねえと思ってたんですよ……すいません。
誰にも似ていない、今村夏子しか書けない作品でした。

『焔と雪』

大正時代の京都が舞台のバディもの。
美形の安楽椅子探偵と脳筋気味のイケメンが活躍する。京都と大正へのクソデカ感情がある。とにかく文章がいい。舞台をちゃんと文章でつくりこむこだわりと忍耐力は、並大抵ではない。


『バールの正しい使い方』

語り手が子供の小説って難しいんだけど、この作品はすごくそれがうまい。
表面的な話し方やルールを守ってるだけで、根底の精神性が低い小学生の描き方がよい。小学生ってこんなのだよな。
なにか特別なものを持ってる作家さんなので、ひきつづき注目したいです。


▼ノンフィクション


『怪物に出会った日』

井上尚弥に負けた選手たちにインタビューを取りに行く――この企画だけですでに困難が予想される。
案の定「話したくない」という選手もいるが、驚いたことに多くの選手は取材に応じ、「負けたあと」を語る。
負けたボクサーの人生は困難だ。それはチャンピオンだろうが、3回戦ボーイだろうが関係ない。負けたあとも人生はつづく。敗北したあと、どう進んでいくかは人それぞれ。チャンピオンでさえ、ひとつの負けをきっかけに転落してしまい立ち直れなくなる。
それだけすべてを賭けていたのだと思うけれど……と割り切れない気分になる。


『亀裂 創業家の悲劇』

セイコーの服部家、国際興業・小佐野家、ロッテ・重光家、ソニー・盛田家、ユニバーサル・エンターテインメント・岡田家、大塚家具・大塚家、大戸屋・三森家、ゲオ・遠藤家、村上ファンド……起業家の混乱と破滅を描いたルポ。
「ギリシャ悲劇の時代から人間は変わらない」という常套句が「ほんまやな……」と実感できてしまった。
いつの時代も金と権力が人をおかしくしてしまう。途上国の女性に子供を産ませて、自分の息子を何十人もつくって競わせる富豪の話など、現代とは思えない逸話が盛りだくさん。
福本伸行の漫画に出てきそうな金持ちって本当にいるんだな。


『三流シェフ』

料理系のYou Tubeをよくみるのだけれど、この人のチャンネルは自分語りがとてもうまくて聞き入ってしまう(ただし、マジで長い!)。
その語り口調が再現されていて、昭和のザ・料理人の成り上がりストーリーとして非常に魅力的。

最終的に三つ星とれてないことの裏話や、人間関係なんかも赤裸々。どのジャンルもただひとつのことをやってる、それだけではだめだし、それだけをやることを許されなくなっていくのは同じだ。

『特攻少女と1825日』

ゴールデン街で、バーの店主に勧められて読んでみた本。
レディース暴走族を扱った雑誌『ティーンズロード』の創刊者から見たあの時代。レディースの存在自体がもうほとんど消えかかっているいまだからこそ、この記録は貴重。
純粋に筆者の体験したレディースたちとのヒリヒリしたやりとりが、いまとなってはフィクションのようにスリリングで、記録としても読み物としても面白かった。

『千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話』

タイトルそのままの話なんだけど、ルーマニアでも純文学シーンがあってそのシステムにふれられているところとか、まったく知らなかったので新鮮だった。
引きこもっていてもなにかひとつに特化すると道がひらける……のは希望なのか絶望なのかわからないよな、といつも思う。ほとんどの人はそこまで徹底できない。

『死者の告白 30人に憑依された女性の記録』

東日本大震災で亡くなった30人がつぎつぎと、ひとりの女性に憑依する不思議な現象を追ったルポ。
オカルト、といって切り捨ててしまうのは簡単だけれど、そうではない視点も提示している。
心霊現象なのか、心理的な病なのか、そのどちらでもないのか。それは保留にしておいて、眼の前で苦しんでる人を助けるだけというシンプルなこと。

▼番外編


『ひきこもりの手記』

年末に蟹ブックスでやったイベントで、北村早樹子さんが紹介してくれた奇書。
北村さんはめちゃめちゃ読書家で、ここの日記よむと日々、めっちゃ本読んでるのがわかる。
とはいえ、この本は本当に知らなかった……。どうもネットでは、酒鬼薔薇が書いた……?とか、令和のドグラ・マグラとか、色々言われている模様。

キンドルで無料だったから読んでみたんだけど、うーん、なんともいえない。そうかもと思わせるなにかはある。
ペーパーバックもあるから電子書籍が読めない人は買ってみるといい。


▼漫画


▼出会って4光年で合体(R-18)

成人向け、性描写ありなので万人にはおすすめできないが、これは2023年、最もすごい漫画だった。
ハードSF伝奇グラフィックノベルというか……あまりにもぶっとんでいて、切実で長大でとんでもない傑作。
グレッグ・イーガンと植芝理一を悪魔合体させてコミックLOだけを与え続けたような……とにかくやべえ。次の作品が待ち遠しいが、この量のものを描くにはまた時間がかかるのかも。
いやはや、すごい人がまだまだいるもんだな。



以上、2024年も面白い本がよめますように。

★年末ベスト
2022年読んで面白かった14冊

2021年おもしろかったマンガ

2021年に読んで良かった本16冊

2020年読んで面白かった本19冊

2018年読んで面白かった本10冊

2017年おもしろかった本・映画・買って良かったもの


よりよい生活のために役立てます。