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日本流イノベーションの可能性(アート思考と身体)イベントレポート

アート思考×ビジネスの第2弾として、「アート思考と身体」をテーマとしたイベントが、2019年4月24日に日本経済新聞COMEMO主催で開催されました。(ちなみに第1弾はこちらのレポートがオススメ)

・つまらないからこそ、能は650年も続いている
・マーケティングをして人々の好みに合わせようとするから消滅する
・650年続いた理由は「伝統」と「初心」

というお話や、

「人類はシンギュラリティを過去に経験している(文字の発明)」
「文字を発明したことで、知識の外在化(自分の外におく)ができるようになり、知(新しいことを考える余裕)が生まれた」
「AIによって、知を超えたものが生まれる」

というお話など、過去に学びつつ、参加者それぞれが、現在から未来に思いを馳せる、とても濃密な時間となりました。

注:
あまりに濃密すぎて、自分の中で飲み下すのに時間がかかっています。そのため、公開はしていますが、まだ完成途中です。今後、随時更新していきます。
素敵にまとめられているグラレコを最後に載せていますので、よければこちらをご覧になってお待ちください。

※4/24 9:30 ■能がつまらない理由 を追記

■登壇者の3名のご紹介

安田登さん(能楽師)

今回のイベントという舞台を文字通り「支配」されたお方。

能楽師でありながら、会社役員、AIの研究者という一面もあり、過去には3DCGやゲームの攻略本、プレイステーションのゲーム制作にも携わっていたという、失礼ながら、「とんでもない」としか言いようがない経歴をお持ちの安田さん。

今回のイベントでは、会場の参加者だけでなく、同じ登壇者の藤原さん、モデレーターの若宮さんも含めた全員が、「THE 安田ワールド」に引き込まれてしまいました。

藤原佳奈さん(演劇家)

劇作家であり演出家の藤原さん。
「映画でいう脚本家と監督ですよー」と分かりやすく例えていただきました。
姫路出身ということで、所々出る関西弁がとても魅力的でした。

モデレーター 若宮和男さん(uni'pue代表)

「アート思考×ビジネス」の第1回に引き続き、モデレーターは若宮さん。

「アート思考」という感覚的な概念を、図や例えを使って、わかりやすく言語化しておられます。
新規事業の立ち上げ、起業、複業をやっておられる方、考えている方には若宮さんの記事はオススメです。
(例えば、こちらのnoteで参考にさせて頂いた「ユニークなコアバリュー」など)

■テーマは「わからないこと」

「わからない」はイノベーションを考える上での本質である

イベント冒頭での、モデレーターの若宮さんの言葉です。
このイベントはまさに、この「わからない」を体感するイベントであったと思います。

「なんとなく、言っていたことはわかったけど、うまく説明できない」
「なんかモヤモヤしている。のどの奥に、何かひっかかった感じ」

イベント終了後の参加者の感想です。
このモヤモヤした感じに、すぐに答えを見つけるのではなく、

「時が来るまでグツグツと、自分の中で煮込む」
「グツグツ煮込んでいると、いつか、なにかのキッカケで、わかる瞬間がくる」

というのが、今回のイベントを通しての学びでした。

■能がつまらない理由

能楽師であるにも関わらず、安田さんは「能はつまらないもの」と仰います。安田さんは論語の本も出版されていますが、論語も同様に「つまらないもの」とのことです。

しかし、「つまらない」からこそ、能は650年もの間続いているとのこと。
「マーケティングをしなかったから長く続いた」と安田さんは仰られました。

・観客の好みに合わせると、最初は喜ばれる。
・しかし、だんだんとそれが「当たり前」と思われるようになり、「もっと面白いものを」と、要求がエスカレートする。
・その期待を超えられているうちはよいが、期待を超えられなくなった時、「観客に飽きられ、消滅してしまう」
・だから、能も論語も「つまらない」

この話は、ビジネスの視点でみると、非常に逆説的です。
一つの事業の寿命は30年といわれ、時代に合わせて新しい事業を生み出し続けないと、企業は衰退すると言われています。
だからこそ、多くの企業がマーケティングに多くの費用を投じ、「イノベーション」を起こそうと必死になって取り組んでいます。

しかし、能も論語もそれをしなかったからこそ、人々の間に長く生き残っているということで、「ビジネスと能や論語を同列で考えてよいのか?」、「仮に安田さんの言うとおりだとして、では、今後のビジネスをどう考えていけばいいのか?」と、非常にモヤモヤした、「わからない」状態になりました。

モデレーターの若宮さんも、同じように「わからない」気持ちをTwitterでつぶやいておられました。

■650年続いた理由は「伝統」と「初心」

「能における伝統と初心」として、安田さんから、以下のお話がありました。

【伝統】
・誰でも受け継いでいけるシステムをつくること
・人に依存していると、戦争や災害が起きると終わってしまう
・観阿弥、世阿弥の時代に「能を作るためのフレームワークが完成している」
・完全なマニュアル化、ルーティン化しないことが重要
・同じ舞台にいる演者の「呼吸」を感じ、合わせるのが秘訣

【初心】
・「初」は衤(衣偏)に刀と書いて、反物に刀を入れている様を表す。
・すなわち、過去の自分を切り刻むこと
・「初心忘るべからず」の意味は、時々で過去の自分を切るということ
・能では過去4回の「初心」があった

1回目(豊臣秀吉の時代)
 :着る物の変化(能装束が変わり、動きに制限)
2回目(江戸時代初期)
 :スピードの変化(それ以前は今の2~3倍速かった)
3回目(明治維新)
 :場所の変化(演じる場所が外から中に)
4回目(戦後)
 :お金の変化(パトロンによる援助から興業形態に)

・能の稽古では「初心」を身体に覚え込まされ、生きている限り「初心」を要求され続ける
・変化は予測できない。突然変わるから
・起きた後でしかわからない(イノベーションと同じ)

このお話の中で、

・積み上げた後で「初心」になるのは怖い

という言葉があり、それを聞いた私は、「天」という漫画のあるシーンが頭の中に浮かびました。

暴力団のトップという成功を収めた人間(原田)に対し、アルツハイマーになり、自ら死ぬことを選んだ天才アカギのセリフです。

”実は「成功」はなかなか曲者でよ。一筋縄じゃいかない代物。最初の一つ二つはまぁいいんだが、10・20となるともう余計、余分だ”

”「生」の輝きと成功は・・・最初はつながっていた。なのにどういうわけか、積み上げていくと ある段階でスッ・・・とその性質が変わる。成功は生の「輝き」でなく枷になる”

”「成功」が成功し続ける人生を要求してくる”

イベント終了後、「日本ではなぜイノベーションが起きないのか」について、安田さんとお話させていただきましたが、アカギのセリフで「成功は曲者」とあるように、

・過去の成功体験にとらわれていること
・「失敗=悪いこと」という価値観が根強いこと

を、日本でイノベーションが起きていない理由に挙げておられました。
そして、

今後、日本に大きな変化が起き、「初心」になる必要に迫られたとき、過去にとらわれすぎていると、悲観的になりすぎて動けなくなってしまう。
「初心」になって、動ける人を増やさなければならない

ということを仰っておられました。

この「初心になる」ということ、家族、友人、仕事などにおいて、これまでの人生で積み上げてきたものを崩すのは容易ではありません。
私の場合、「社内試験での失敗」がキッカケで、それまでのキャリアプランが崩れ、社内異動という「初心」になる機会を得ましたが、そこに至るまで、そして、そうなった現在でも、悩みや葛藤があります。

果たして初心になるとは、そのレベル、予め備えておけるものなのか、それともそのときになって乗り越えるものなのか、など、これからもモヤモヤが続きそうです。


(後日に続く)

■グラレコ


いつも支えてくれている嫁と息子に、感謝の気持ちとして美味しいお菓子を買ってあげたいと思います^^