見出し画像

リプトンのブランド開発責任者から学ぶマーケティング思考

コロナによって、大きな時代の変化が起きている現在。
これまでの常識が通用しない世の中では、相手が求めているものに辿り着くための「マーケティング思考力」がますます重要になっていると感じています。

そんなマーケティング思考力のトレーニングに最適なのが、「マーケティングトレース(マーケターの筋トレ)」
2020年5月からオンラインサロンがスタートしており、実際にそのマーケティング戦略に関わった方から直接、マーケティング思考を学ぶことができます。

サロンでは、一流マーケターの考え方や思考プロセスに直接ふれることができるため、「なぜ?」や「どうして?」を深く理解することができ、効率的にマーケティング思考力が鍛えられます。

8月のミートアップではユニリーバ・ジャパンでブランド開発責任者を担当されていた長瀬次英さんから、紅茶の「リプトン」を題材に、当時、どのようにしてリプトンのマーケティング戦略を考え、実行したのかをトレースしましたので、その内容をこのnoteにまとめます。

ちなみに長瀬さんは8月に初の著書を出版されていますので、ご興味ある方はぜひ!!!

はじめに(リプトンの基本情報)

スライド1

今回のお題は、長瀬さんがブランド開発責任者だった2008年~2012年におけるリプトンのマーケティング戦略をトレースすることです。

ということで、まずはじめにリプトンの基本情報から。

みなさんも一度はリプトンの紅茶を飲んだ経験があるかと思います。
紅茶ブランド「リプトン」は、イギリス出身で紅茶王と称された「トーマス・J・リプトン」が始めた紅茶事業からスタートしました。

スライド2

現在は、世界有数の一般消費財メーカーであるユニリーバが保有するブランドの1つとなっています。

スライド3

日本にリプトンが上陸したのは1906年。
現在は、ユニリーバ・ジャパンが事業展開を行っています。

スライド4

さて、リプトンの紅茶は、ティーバッグや紙パックなど、様々な商品がありますよね?
実は製造元の会社が違っているのですが、みなさんはご存知でしょうか?

スライド5

スライド6

ティーバッグやリーフティーはユニリーバ・ジャパン、紙パックのチルド商品は森永乳業、ペットボトルはサントリー食品インターナショナルが製造・販売を行っています。

なぜ、同じリプトンなのに製造元の会社が違うのか気になりますよね?
今回、森永乳業もサントリー食品インターナショナルも上場企業だったので、有価証券報告書を見に行きました。

有価証券報告書というと、難しい印象があるかもしれませんが、契約に関する情報や、重要な取引先との関係などが記載されていますので、調べ物をする際はパッと見に行けるようにしておくと色々役に立ちます。

有価証券報告書の読み方については、こちらのnoteにまとめていますので、もしよろしければ、ご覧ください。

話がそれましたが、リプトンと森永乳業との関係に戻ります。

森永乳業は1984年にユニリーバ・ジャパンとの間で商標権の使用契約を締結しています。36年前からの長いお付き合いになるんですね。
現在は2年自動更新の契約となっているようです。

スライド7

スライド8

続いてサントリー食品インターナショナルですが、こちらは最初のお付き合いがいつからかの記載はありませんでしたが、現在の契約は20年前に締結したもののようです。

スライド9

「なぜユニリーバ・ジャパンとの契約ではないのか?」

長瀬さんに確認したところ、サントリー食品はリプトンの業務用粉末も扱っており、ペットボトルよりも業務用粉末の方がビジネスボリュームが大きいとのこと。で、業務用粉末の権利はペプシリプトンが保有しているため、ユニリーバ・ジャパンではなく、ペプシリプトンとの契約になっているそうです。

リプトンに関係する会社を図解でまとめました。

スライド10

日本国内におけるリプトンのロゴの使い方、商品展開、味、プライシングなど、リプトンのブランドマネジメントはすべてユニリーバ・ジャパン、つまり長瀬さんが管轄されていたそうです。(正確には、日本を含むアジア・パシフィックの12ヶ国)

長瀬さんがブランド開発責任者になるまでは、ユニリーバ・ジャパン、森永乳業、サントリー食品でそれぞれ個別の戦略に基づいて販売を行っており、ブランドとして一体の取り組みになっていなかったそうです。

そのため長瀬さんは、各社に対し、ブランド戦略を統一することでリプトン全体の売上が増えるというのを理解してもらい、以降、リプトンブランド一体となった取り組みになるよう関係者の考え方を変えていったそうです。(このような大きな改革の進め方や考えについては、長瀬さんの本で解説されています!)

飲料マーケティングの基本

スライド11

マーケティング戦略を考える上でまず取り組むべきこととして、長瀬さんが何度も強調されているのが、

・そのビジネス(会社)の仕組みを理解すること
・そのビジネス(会社)の商品のポートフォリオを理解すること

の2点です。

どういった関係者がいるのか?や、どういった流通経路で商品が消費者に届けられているのか?、そして、どのような商品展開を行っているのか。
商品については、どういった商品があるのかは当然のこと、それらの原価や利益率も押さえる必要があると、強調されています。

スライド12

そしてそれと同じくらい強調されているのが、「ターゲットファーストで考えること」

例えばリプトンであれば、「誰が、どんな時にその商品を飲みたいと思うのか」を考える必要があります。
そのターゲットは、どういった場所で、どういったシーンでそれを飲みたいと思うのか、その光景が目に浮かぶように、具体的にイメージするのが大切です。

スライド13

そして、リプトンの時に長瀬さんが考えられたのが、「どうすれば一生、リプトンの紅茶を飲み続けてもらえるのか?」ということ。
当時は、紅茶が流行っておらず、「紅茶=マダムの飲み物」というイメージが強かったそうです。
そこで、「紅茶=みんなの飲み物」と思ってもらえるよう、全体戦略を考えられたとのこと。

学生時代に100円の紙パックでエントリーしてもらい、まずリプトンや紅茶のことを知ってもらう。
大学生、社会人になると紙パックは飲まなくなるので、1本150円のペットボトルで飲み続けてもらう。
社会人になれば、職場や自宅にお客を招き紅茶を出す機会も増えるため、簡単に美味しい紅茶がつくれるよう、ティーバッグを改良する。
こうして生まれたのが、リプトンの代名詞である「テトラバッグ」です。

そうして、紅茶の美味しさに目覚めた人に、最終的に本格リーフを飲んでもらう。

ここまで考えて、初めてブランド戦略となります。

スライド14

また、多くの商品、サービスの中でも飲料のマーケティングは難易度が高いとのこと。
マーケティング戦略や打ち手を考える際、考えるべきことがとても多いからだそうです。

例えば、「シェアオブウォレット」という考え方。
複数の飲料から選んでもらうだけでは足りず、おにぎりやお菓子など、異なるカテゴリーの商品が競合になることも理解し、それでもリプトンを選んでもらうにはどうすればいいかを考える必要があります。

スライド15

次に「シーズナリティ」。
みなさんも夏と冬とで飲みたい飲み物は変わりますよね?

リプトンでも、夏は「スッキリ、爽やか」な商品やマーケティング戦略を、冬は「ホッと一息」つける商品やマーケティング戦略を考える必要があります。

スライド16

他にも、コーヒーと差別化を図るために「成分」に着目したり、「紅茶=女性の飲物」という固定観念を覆すための商品ラインナップや戦略を考えたりと、様々な切り口で「消費者に選んでもらうにはどうすればよいか?」を考える必要があります。

スライド17

スライド18

ブランド力を上げる打ち手を考える

スライド19

さてここからは、ミートアップで長瀬さんから出たお題に対して私が考えた内容が中心になります。

まず1つ目のお題が「当時(2008年~2012年)に行ったブランド力を上げる打ち手を考える」

リプトンのブランドを理解するため、ブランディングトレースをしてみました。

・「癒やし」×「手軽に美味しく」×「家庭」というブランドパーソナリティ
・20代~40代の女性というブランドターゲット

が主なポイントです。

スライド20

そこから、当時の時代背景をもとにブランド力を上げる打ち手を考えました。

■時代背景(2008年~2012年)
リーマンショックからの景気低迷、東日本大震災で世の中が落ち込み、元気がない時代

■ブランドの定義(リプトンとは?)
・紅茶=ヒーリング(癒やし)
・リプトン=紅茶の民主化(大衆化)

■ブランド力を上げる打ち手
・紅茶=癒やし、サステナビリティのイメージの刷り込み(TVCM、環境への取り組み等)
→ほんの少しのお金を足せば、世の中に貢献できるという「お金を出す理由をつくる」

スライド21

この打ち手に対し、長瀬さんから

「オケージョンに乗るという考え方は正しい」

というフィードバックをいただきました。

他の方からは、

・当時は食品偽装問題が判明 ⇒食の安全生をPR
・当時は不景気、かつスマホが流行りだした時期なので、「みんなでリプトンを飲もう!」というエモーショナルな施策を打つ
・棚の占有率を取るため、サステナビリティ、健康など、当時関心がある事柄に絡めた商品バリエーションを開発

といった、打ち手が出ました。
が、長瀬さん曰く「ビジネスインパクトがあるか?という視点が不足している」とのこと。

そこで、再考したのが以下です。

スライド22

ブランドでデザインを統一することで、ブランド力向上につなげるだけでなく、

・小売店でセットで置いてもらいやすくする
・視認性を高めて消費者に手に取ってもらいやすくする
・結果、販売数が増加(=売上増加)する

という打ち手を考えました。
ちなみに、このパッケージデザインの統一、「11月は家族で紅茶を飲もう」キャンペーンの中で実際に行われたとのことです。

スライド23

インパクトのある打ち手を考える

スライド24

長瀬さん曰く、他の方の打ち手を含め、まだまだインパクトが足りないということ。再度打ち手を見直すことにしました。

インパクトのある打ち手を考える時のポイントは3つ。

・世の中の状況、空気を読む
・決定権者を数字で説得できるだけのビジネスインパクトがあること
・顧客のロイヤリティ向上、顧客層の拡大など、ブランド力の向上につながること

ターゲットを具体的に意識した上で、この3つのポイントを満たす打ち手を考える必要があるとのことです。

スライド25

・30~40代の女性、主婦(メイン)、OL(サブ)
・ティーバッグ

をお題として、改めて打ち手を考えることになりました。

打ち手を考えるにあたり、リプトンの商品理解から再度やり直しました。

以下はリプトンのHPに掲載されているリプトンの商品です。
ティーバッグの種類の多さが目立ちます。

スライド26

ティーバッグの各商品について、誰をターゲットにしているのかを調べました。
女性をターゲットにした商品が多く、様々なシチュエーションに合わせて商品が用意されているのがわかります。

スライド27

さらにターゲットについて理解を深めます。

フレーバーティーやルイボスティーなど、ティーバッグが10袋程度入った商品はエントリー層に気軽に楽しんでもらうための商品、イエローラベルなど、20袋以上入った商品は定番品としてリプトンを気に入っている一般顧客向けの商品になっているのではないかと推測しました。

実際にスーパーでリプトンの価格を確認したところ、競合よりも高い価格設定になっています。
高くても買ってもらうためには、リプトンがお気に入りでないと難しいです。
そのため、現在リプトンをあまり知らず、リプトンを買っていない(もしくは少ない)、20~40歳の女性ワーカー、主婦がターゲットとし、「お店に来る前にリプトンを買う心理状態にもっていくためにはどうすればいいか?」を軸に、打ち手を考えました。

スライド28

スライド29

スライド30

スライド31

STP分析のフレームワークを使って、ターゲット像を詳細化しました。
前回の「BORDERS at BALCONY」の時もそうでしたが、女性の心理については奥さんにインタビューした上で、自分の経験とMIXして考えるようにしています。

ペルソナから、「紅茶の美味しさや楽しみ方がよくわからない」という課題が見えてきたので、「リプトンのおいしさや楽しさをわかりやすく伝える」ことを解決策として考えました。

実際、リプトンのHPではおいしく淹れる方法や、紅茶を楽しむためのアレンジレシピが目立つように掲載されています。

スライド32

スライド33

スライド34

また、「産地は気にしている」という奥さんのコメントがあり、特に妊娠中や小さい子どもがいる母親に対しては、安心感も重要な訴求ポイントだと考えました。

スライド35

導き出した打ち手は以下です。

スライド36

女性誌では、「健康、美容、癒やし × オシャレ」に関する特集がよく組まれています。
そこにリプトンの紅茶を美味しく飲む方法やアレンジレシピ、安全性などを掲載し、「リプトンの紅茶はいい気分になりそう、暮らしの質が上がりそう」と思ってもらうことで、リプトンのティーバッグを指名買いしてもらえるのではないかと考えました。

ビジネスインパクトはターゲットの人口やアンケートでの紅茶の飲用意向などをもとに試算しています。

ちなみに、実際に長瀬さんが行った打ち手は、100個入り大容量の「ピュア&シンプルティー」をつくったこと。

リプトンのブランド力&産地の認証による安心感、手頃な値段でガブガブ飲める点が受け、ヒットにつながったとのことでした。

スライド37


また、個包装をなくすことでエコにつなげただけでなく、包装費用の削減、輸送効率アップによる利益を最大化した点が、社内でも高く評価されたとのことです。

世の中の状況にあった商品でブランド力向上につなげ、かつ、圧倒的なビジネスインパクトをもたらした打ち手の内容に、さすがとしか言いようがありませんね。

スライド38

イエローラベルの売上を増やす打ち手を考える

スライド39

ここまでは過去の打ち手のトレースでしたが、最後のお題として、

「現在においてイエローラベルの売上を増やすにはどうすればよいか?」

を考えました。

イエローラベルはスーパーやコンビニでは、コーヒー、紅茶コーナーなどの粉末飲料を扱うコーナーに置いてあることが多いです。
正直、目的をもって行かないと目につかない目立たない所に置いてあります。
この状況下で、「どうすれば販売機会を増やすことができるか?」という軸で打ち手を考えました。

スライド40

・在宅勤務の増加などで、男性の家で過ごす時間が長くなっている点
・女性は家で紅茶を淹れて飲むが、男性は飲まない点
・紅茶は他の食品、飲料と組み合わせやすい点

に着目し、打ち手を考えました。

2点目は自分のような男性をターゲットとしてみています。チルドはあれば飲むという程度ですし、ティーバッグから淹れるのは面倒なんですよね。

という人に、どうすればイエローラベルを買ってもらえるかを考えました。
結論としては、いきなりティーバッグを買わせるのはハードルが高いので、まずは自宅で紅茶を楽しむ機会を増やし、イエローラベル購入予備軍とすることを考えました。

家の中にいると、飲み物のバリエーションって少ないんですよね。
同じ味に飽きて、ジュースをミックスして飲んだりしているので、紅茶で同じことができるのでは?と考えました。

スライド3

スライド41

スライド42

具体的な打ち手の内容は以下です。

スライド43

予め何かとミックスすることを想定した希釈用ペットボトルを販売。
在宅勤務だと何気ない会話の機会が減少しているので、

「アレンジ紅茶、何飲んでる?」

というをのきっかけに会話量が増やせるというプロモーションや、色々な飲み方のバリエーションをSNSなどを使って広めてもらうことで、認知や購入につなげていけるのではないかと考えました。

「コミュニケーションにはリプトン」

という新しいブランド価値も生み出せると思います。
男性を取り込むことで、ビジネスインパクトも大きくできると考えました。

長瀬さんからは、こうした打ち手を考える際は「その打ち手で自分が変わるか?」が重要なポイントというフィードバックがありました。
なので、考え方の筋としてはよかったのかなと思います。

まとめ

今回、飲料という身近な商品が題材だったので、実際に自分で店を見に行ったり、商品を買って試してみたりと、PCの前だけで考えるのではなく、実際に行動して考えられたのは、マーケティング思考力を鍛える上でとてもよかったです。

おかげでコンビニやスーパーに行ったときには、「どんなマーケティング戦略が隠されているか?」という視点で見るようになり、店に行く楽しみが増えました(^^)

例えば、何気なく見ていたスーパーのヨーグルトコーナーですが、ここには明治のマーケティング戦略が隠されています!
この明治の明治のマーケティング戦略や、それが明治の経営に与えたインパクトについては、近いうちにお披露目予定です。お楽しみに!!!

スライド49

というわけで、マーケティング思考力を身につけたい方、鍛えたい方は、マーケティングトレースのオンラインサロンオススメです!

今月9月は「インスタグラム」を題材に、長瀬さんが日本事業代表責任者として考えた内容や打ち手を共有していただきながら、マーケティング思考力を鍛えていく予定です!

現在2期生募集中のようなので、興味がある方はお早めに~



この記事が参加している募集

習慣にしていること

いつも支えてくれている嫁と息子に、感謝の気持ちとして美味しいお菓子を買ってあげたいと思います^^