掌編「一夜の奇跡」


何もなかったはずなのに
全てが嫌になって家を飛び出した


だけど、どこにも行く宛てなどない
一人、ブランコを漕いでいた


夜風が優しく吹いて
何もないのに
泣きたくなる
上手く声が出ない


何かを掴みたくて
吹いた風を捕まえて空の手を握る
ここにいることを確かめるように


突然、何かに引っ張られる
夜風が私を連れ出すように
空、高く、舞い上がって


目の前に広がる光の海
魔法にかかったように
空を泳いで涙が溢れる


あまりに綺麗で
漠然とした不安なんて
小さくなって忘れていた


「また逃げたくなったら連れ出すから
どこへでも、どこまででも。」

そう誰かが囁いた