不死身

 これは遠い昔の話。人々は不死身になる方法を研究していた。物語でしか登場しない想像上の産物を人々は実現しようとしていた。そして、その野望に力を持つ国が援助をしたおかげか、ついにその技術が出来た。そうして、生まれたのがNo.1 男性型「アダム」とNo.2女性型「イブ」、貴方と私だ。
 しかし、この技術は未完成だった。実際生きている人間には応用ができなかったのだ。これから生まれる赤ん坊にも適用ができなかった。そして、私たちの間には子供が生まれなかった。その全てまるで、見えざる者の力が働いているように、永遠の命を持つのは貴方と私の二人だけになった。
 世界情勢は一変。世界は私たちを取り合う戦争へと発展した。

 どれだけ時が経ったのだろう。多くの人間が死に、疲弊した世界は、私たちを宇宙へと投げ捨てられた。私たちだって人間たちに付き合うのは疲れてしまった。生きることだって。死ぬことができないというのはなんと辛いことか。そう思っても現状は何一つ変わらない。

 「宇宙の果てに行こう。この世界の外側へ」

そう貴方は言った。

 私はもう何でもよかった。生きていく意味なんてないと思っていたから、貴方についていけば、多少は楽しめるだろうと思った。

 そうそこからは本当に楽しかった。生きる意味なんてどうでもよくなるくらい。いろんな惑星を渡り歩いて、地球外生命体に出会ったり、ブラックホールに試しに飛び込んでみたり。太陽系の外へ飛び出して、誰もいない星を私たちの惑星としてみたり。

 しかし、不死身というのは、本当に死なないのだろうか。研究で理論上は生きられるとしても、果たして本当にそうなるだろうか。
いくら自分の体を傷つけようとも、けがはすぐに治った。しかし、この命が永遠に続くという保証には一切なり得ない。
永遠の命の果てなど、本人にしかわからないのだから、証明しようがない。

 そのことに気が付いたのは、どれほど遠く来たか分からないほど、旅した先で、いつもと変わらない日だったはずなのに、貴方が目を覚まさなかった日のことだ。

 前日まで特段変わった様子もなく、いつものようだったのに。貴方の寝息が聞こえない。揺さぶろうとも起きる気配はない。脈も感じられない。冷たい。
「どうして。私たちは死なないんじゃなかったの…!?」
動かぬ躯の前で叫ぼうとも、答える声はない。

私たちの生みの親はもういない。答えはわからない。地球に戻っても答えは得られないだろう。そう、私たちは永遠の命に近いものを手に入れただけだった。そして、自分の命だっていつ終わるか分からない。私は選択を迫られていた。今までの旅路を戻るのか、この場所でただその時を待つか、旅を続けるか。

答えはもう決まっていた。いつか貴方が言っていた夢を、私が叶えよう。