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あなたのいる背景

あなたのいる背景に雨の降る景色を置いてみる
するとあなたはとても悲しそうだ
どうか泣かないでください

あなたのいる背景に
小鳥の群れが飛び立つような白いさざ波を置いてみる
するとあなたはどこか不安げな顔だ
なにも心配することはないのに

街には初恋の匂いが漂い
絵のような日々が一枚ずつめくられていく
無関係なものまでがひどく懐かしいのは
人は空気のなかに思い出を残すことができるから

あなたのいる背景に
五月の明るい緑と葉を揺らす風を置いてみる
するととびきりの微笑があなたに生まれる
けれども何かが足りない
とても大事な何かが

それは音楽だろうか
決して目には見えぬかわりに
聴く者の感情に彩色をほどこすそれは
あなたにふさわしいかもしれない
あなたが語りかける言葉は
あなたが語りかけたひとの心に響く
色彩を与え世界を広げる
音楽のように

あなたのいる背景に
あなたのいる背景に
もう何も置かないでおこう
雨が降ればあなたのことを大切に思うひとが
傘を差してくれる
そんな幸せがあなたの永遠の背景なのだから


◇◇◇◇

《覚え書き》
 この詩は、初期の作品で、未発表の第二作目にあたるものです。
 当時、職場でとてもお世話になった方が、結婚を機に退職することになり、その送別会で朗読しました。居酒屋の一室を借り、六人くらいの人数の前で突然披露したため、皆を唖然とさせてしまった思い出があります。
 ただ、少しは印象に残るところがあったのか、このときの参加者のひとりから、のちに、近々結婚式を挙げることになったのでお祝いの詩を書いて欲しい、と頼まれることになります。そんなきっかけにもなった、色々と思い出のある詩です。

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