時速15kmの世界で
恋人が中野に引っ越した。その手伝いに行った。
2回目の中野は、天気がよく、美味しそうなごはん屋が並んでいて、居心地の良さを感じた。
手伝いを終えて、家に帰り、カフェに行くために自転車に乗った。以前、自転車の速度は時速15kmだということを知った。
時速15kmで走る世界は、少し肌寒く、ただ新しい発見の予感による期待と興奮で心が踊る。時には間違えて自転車じゃ通れない道に入ってしまうこともある。
知らない街、初めての道、手を繋ぐ親子、買い物帰りの夫婦。そこには、僕が知らなかった空気や匂い、暖かさや寒さ、期待や不安が入り混じっている。知らないから面白い。初めてだから楽しい。これが生きていく上できっと大切なことなんだと思う。
僕らはどれだけ効率よく物事をこなすことができるかという社会で生きている。どこかに移動するときにも、そのときの選択肢の中で最も効率がよいと思われるものを選ぶ。家事をするときも、できるだけ機械にめんどくさいことをまるっと任せる。とっても便利な生活で、今ある便利さがなくなると多くの人が困ってしまうと思う。
だけど、僕らはどこまで効率的に生きていかないといけないのだろう。どうして効率の悪いことは時間の無駄と決めつけて、できるだけ自分の時間を増やそうとするのだろう。
その答えを本人が持っていないときに、効率化がもたらすものとは何なんだろう。
僕は、天気の良い日に洗濯物を干すのが好きだ。洗い上がった洗濯物から香る柔軟剤の匂い、ベランダに干したときに気持ちよく乾けという願いと期待。
僕は自転車で移動するのが好きだ。知らない街、初めての道。偶然見つけた雑貨屋さん。素敵なカフェや飲食店。自分の世界が少し広がる瞬間。
もちろん、時間は有限だからどれだけ自分が満足できることに時間を使えるか、自分が無駄だと思うことはやらないかが大切だと思う。だけど、無駄だと思っていたことの中に、ほんの小さな喜びやワクワクを発見することができるんじゃないだろうか。
それは、きっと自分を知るための時間の浪費だ。だからこそ、無駄だと思っていことを一度疑ってみて、それを深く味わうことをこれからも続けていきたい。きっとそれは、僕らの生きてく小さな糧になる。その小さな糧がたくさん積み重なることで、日々の「楽しい」や「嬉しい」が生まれてくるんだと思う。
さあ、明日も時速15kmの世界に。
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