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2人目ラッシュを傍観しながら

 同じ時期に出産した人が2人目を妊娠したり、生まれたりという話が多くなってきた。2人目、2人目……。

 今まではエン様(子どものあだ名、2歳)の手のかかり具合から2人目なんて無理だと思っていたが、最近の成長は著しく、今から約1年後であれば少し余裕ができるかもしれないなと思う。

 しかし、やっぱりもう一回真剣に考えて、しばらくは2人目を考えないことにした。理由はいっぱいある。
・不妊治療もう一回やるのはしんどい
・転職先の仕事が楽しくて学ぶことがたくさんあり、もう少しギアを入れていたい
・実家の介護状況が心配でそれどころじゃない
・2025年の大阪万博は何回も行きたいと思ってるので、身重で行きにくくなるのは避けたい
・推しの舞台を自由に観劇できなくなるのがキツい

 とはいえこんな理由は、もし妊娠したら吹き飛ぶのはわかっている。それより根本的な理由がある。


 1人目を妊娠するのは、私の人生における目標だった。高1で発生生物学に魅せられてから、たった1個の受精卵が分裂を繰り返し、分化し、身体を作り上げる過程を知りたいとずっと思っていた。学部と院でニワトリやマウスを使って胚発生の遺伝子発現や細胞の挙動を学んだ。最終的には座学で勉強したことを身をもって体験したかった。そして妊娠し、目標を達成した。
 たとえマッドサイエンティストと言われようとも、私が妊娠したかったのは胚発生を体験したかったからであり、出産してからはなんとなく燃え尽き症候群のようになっていた。ふわふわしていて自分でも気持ち悪かったので、次の目標を設定し、転職したのだった。

 他のママさんたちも、1人目は「子どもを持つ」ということが目標になっている人は多いのではないだろうか。新生児の可愛さや貴重さは産んだからこそわかるので、「もう一回新生児見たい」という気持ちで2人目を考える人も多いと思う。その気持ちはめちゃくちゃよくわかる。

 閑話休題。「親のエゴで子どもを作って……」という言い回しをよく見る。「親のエゴで子どもを作って申し訳ない」、「親のエゴで子どもを作ったのに虐待するとは何事だ」、「親のエゴで子ども(私)を作ったくせに、私を叱る理由なんてないでしょ」という風に。
 私の場合なんか完全に100%私のエゴで子どもを作っている。でも、生物学の立場に立つと、子どもが生まれるのはエゴで当たり前なのだ。エゴの後ろには本能がある。あらゆる生物種は遺伝子の乗り物にすぎず、遺伝子は自己複製し次代につなげるために、本能的に子どもを産むよう働きかける。
 ケージの中で生まれ育ったマウスは、何も教えていないのに、雌雄同じケージにすると交尾を始める。その光景を見た時の衝撃は忘れられない。身体は遺伝子の乗り物にすぎない、子どもは本能によって生まれてくる、と体感した。だから「親のエゴで子どもを作って……」の言い回しを見ると、当然です。と思ってしまう。

 今は目標を仕事に設定してしまっているので、どうしても2人目に気持ちが向かない。まだ転職して間もないので、仕事が軌道に乗ったら考えるのかなぁ……と、遠い目をしている。

 人は理性的動物なので、理性が本能を抑えている部分が大きい。1人目の時は理性と本能のベクトルが一致していたので何も迷うことがなかったが、今は理性が仕事の方を向いている。はたして本能が理性を上回る時は来るのか。あるいは理性が2人目を望む時が来るのか。そしてその時、身体機能として私は妊娠可能なのか。数年先に答え合わせをしよう。


《終わり》


注)今は仕事にフォーカスしているといえども、育児も自分なりに一生懸命やっております。


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