日記:4/4(夜が怖い)
夜が怖い。今夜はうまく眠れそうにない。
今僕は駅前のマクドナルドでこの文章を書いている。マックは相変わらず騒がしい。彼女とのいざこざを深刻そうに話す男性二人組、新学期に向けて一緒に履修登録をする大学生達、なんだかヒステリックそうな彼女と困り果てている彼氏。そんな雑音の中に僕はいる。
最近、夜が怖くてたまらない。日が沈み、街の明かりが消え、人々がめいめいの家に帰ってゆく。その後に訪れる静けさが、僕の心を冷たく包み込む。自分の部屋、つまりは1Kの狭いアパートに戻れば、僕はもうひとりぼっちだ。いや、そんなこともないかもしれない。何故なら僕は夜になると、常に静寂と暗闇と孤独が隣にいるのを感じているから。4人で仲良くパーティーとでも行けばいいのだけれど、そうもいかない。大概の夜は僕は3人に無言で監視されているような気分だ。心が休まることがない。
静寂、暗闇、孤独。全て僕が苦手とするものである。中でも孤独は最近とりわけ苦手である。
最近、人間関係の網目を広げる努力をしている。その甲斐あってか少しずつ話せる知人も増えた。知り合いも近くに一人もいない暮らしだった頃に比べれば、大分安心して過ごせるものだが……未だに夜の孤独感は恐ろしい。眠ってしまえれば楽なのだけれど。朝は眠いけれど怖くない。毎朝目覚めると同時に、今日もちゃんと眠ることができたことに安堵する。
精神科で処方されている睡眠薬は、日中に眠気が残るし、第一心理的にも身体的にも依存したくないので飲んでいない。夜の不安をアルコールで誤魔化すのもやめようと思っている。4月に入ってからまだお酒に頼っていない。つまりは自然に訪れる眠気に身を任せるしかないのだが……これがなかなか難しい。大抵の場合そうなのだが、眠気よりも先に不安が襲ってきた場合、僕は不安に耐えなければならない。本当は眠ってしまえれば楽なのだけれど、そういう夜はうまく眠れないものである。
僕には独自の入眠法があって、これは自律訓練法というメソッドを応用したものである。まず、深呼吸をして呼吸を整える。次に、体全体に力を入れ、一気に力を抜く。これは3回繰り返す。そしてここからが肝心なのだが、体の部位を細分化し、一つの呼吸で一つずつ、力を抜いていく。もうあまり力は入っていないが、さらに抜くイメージ。この作業を右足のつま先からお尻まで、次に左足、胴体、右腕、左腕、そして首、顔面、眼球、最後に脳まで行う。力を抜いていくとその部位は重たく、温かく感じる。
この流れは普通最後まで完遂することができない。だが、それで良いのだ。体の部位をより細かく分けることで終了までにかかる時間を長くし、その中途でいつの間にか眠りに落ちるのが目的だ。大体は胴体に到達する前に眠りに落ちてしまう。このルーティンは最近まで無敵で、眠らずに最後まで完遂できたことはなかったのだ。
しかし最近夜の不安が酷く、不眠の傾向が強くなるにつれ、ルーティンの最後まで到達してしまうことが増えた。その場合2周目に入ることに決めているのだが、自分の中で絶対的だった方法が失敗したことは僕の夜不安症を増長させることに繋がった。
今晩はうまく眠れるだろうか。マックもだんだん人が少なくなってきた。こういう明るくて雑音のある場所で布団を敷いて眠れたら、とても安心するのに。だけど今日も家に帰らなくては行けない。あの暗くて孤独な部屋に。今夜は眠気が来るまでマックで作業していくことにする。