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男女の賃金の開きが埋まらない、ちょっとわけありな新法。#同一労働同一賃金


ほんらいの法の理想は、グルになっている集団を徹底的に解体して、追い詰められた一人の人に徹底的に肩入れするもの。

木庭顕『誰のために法は生まれた』2019朝日出版社

なんていわれても、それはやっぱり理想だと思う。

なぜって、それをつくるのが人だから

一度できたルールは立派に思える

だから守らなきゃとなる。


労働法
も同じ。

だれかを助けるためのものでも、現実には誰かの利益のためにつくられることがある。

そこがやっかいだと思う。



男女の年収差

アメリカに遅れること半世紀、日本にもついに2020年同一労働同一賃金が誕生した。

これでようやくこの国も男女の賃金が同じになると思ったけれど男女の賃金格差はなくならない。

女性の賃金は平均して男性の88%。日本は78%

産業別では金融業・保険業は男性賃金の55.3%。女性は男性の約半分

日本経済新聞 2022年5月23日「男女格差情報開示で是正」(データはOECDより)


そう、まだ男女格差はちっともうまらない。



女を助ける法ではない!

この同一労働同一賃金、実のところ男女の賃金格差には直接の影響はない。

なぜならこの法、2つセットではじめて女を助ける力を発揮するのだから。

それは、この法のおこりを知ると、なるほどと思える。

これはヨーロッパ生まれ。しかも必要あって生まれている。


で、あなたが女性なら怒らないで聞いて欲しい。

そもそも、これは男の職域に女をいれないための法律だった。

そう、女を助ける法なんかじゃないのだ。



男は男の、女は女の職場で働くべし!

欧米でもかつては男が稼ぎ手が普通だった。ところが戦争で男が戦場に行くと女がその男たちの仕事をやりはじめ、女でもその仕事ができた。第一次世界大戦のこと。

ー--

でも、それじゃ困るのだ。

困るのは男たち。

なぜって、そもそも女の賃金は安い。その賃金の安い女が男の職に入り込むと大変なのだ。

なぜって、男の賃金まで下げられてしまうから。

ー--

考えてみて欲しい。

雇う側は、同じ仕事をしてくれるのなら安く使える方がいいに決まってる。

そこで出てきた案が男女同一労働同一賃金!

そう。このルール、

男は男の職場で!女は女の職場で働くこと!という発想から生まれている。

『働く女性の運命』濱口桂一郎 2015 文藝春秋
 



同一労働同一賃金

この同一労働同一賃金が規定されたのは、それから随分あとのこと。

それは1950年代の欧州経済共同体誕生の時。

ただ、その目的は男と女を分けようというものではなかった。


ここで問題だったのは女の賃金

なぜって共同体で女の賃金に格差があったから。

それを放っておくと、かつて男たちが心配したことと同じことが起こる。

つまり賃金の安い女に仕事が流れる

もっというと賃金の高い国の女の賃金が下がる。

そこが欧州の男性にはわかっていた。


だからこそ、男女同一労働同一賃金が規定された。

女の賃金はどこの国でも一緒ですよと、と。

そう、同一労働同一賃金は、べつに女性を男性から守りたくてできた法律ではなかった。



アメリカの事情

それから十数年後の1970年代、アメリカで世界初の同一賃金法ができた。

アメリカって国は、男女差別にとても敏感な国、なんて思っているとびっくくりする。

アメリカとて欧州と同じ。

かつての働き方は日本とあまり変わらなかった。

この頃のアメリカ、「男の仕事」と「女の仕事」が法律で規定されていた。

信じられないほどきっちり働き方が決まっていた。

だからこそ、当時女は男の仕事には就けなかった。


嘘でしょ?と思ったあなた。

そんなものだった。


まだ世界は男女差別に目覚めたばかり。それほど時間は経過していない。ほんの半世紀ほど。

アメリカがヒッピーブームでベトナム戦争や暴力に対して愛や性の解放を若者がうったえたそのころ、アメリカで誕生した同一賃金法。

けれど、それは女性を守るための法じゃなかった。

そう、それは、人種間の賃金差別を禁止するための法

そう、まだここでも女性は出てきていない。



おわりに

法は弱者を守るためにつくられる、はず。

ただ、神が、天が、弱者のために法律を用意するわけじゃない。いつだって誰かの声で法律は生まれている。

そして残念ながら同一労働同一賃金には男と女の仕事をきっちり分ける力があった。それが現実。

だからこそ、欧米では男女が均等に働ける法律がその後誕生した。もちろん日本にだって均等法はある。だけど日本の均等法はかなり特殊だ。

同一労働同一賃金はこの均等法とセットではじめて男女の賃金格差を解消するパワーを持つ

では、この国ではいったいいつそれが力を発揮するのだろう。


参考図書

木庭顕『誰のために法は生まれた』2019朝日出版社
『働く女性の運命』濱口桂一郎 2015 文藝春秋


※最後までお読みいただきありがとうございました。



※音声でもおはなししています。良かったらお聞きくださいね。


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