ジョブ型。揺れる米国
時代は想像していた以上の速さで変化している。
誰もが知る「メンバーシップ型雇用」と「ジョブ型雇用」とは、前者が日本の働き方で、後者が欧米の働き方。呼び名をつけなければならないほど、日本と欧米の働き方は異なっているということ。
ところが日本の働き方だけでなく、近頃はジョブ型にも変化がでてきている。
日本と欧米の雇用形態の違い
日本と欧米の働き方には大きく3つの違いがある。
①採用方法
日本では今もまだ新卒一括採用だが、欧米の雇用は既存のポストの欠員補充で公募制。
②職務
日本では人事の力が強く、入社後配属が決まるケースが少なくない。欧米では欠員が出るとそのポストにふさわしい職業資格を持つ人を採用するため、応募する人は職務記述書に書かれた業務内容を見てチャレンジする。よって、入社前に働く場所も知っているし、職務も理解している。
③給与
日本企業では初任給が抑えられるものの、子どもの教育費がかかるようになる頃には家族が養える程度の給与額になる。つまり賃金後払い。欧米で。時間が経過しても給与金額は上がらない。もっと高給を望むのであれば、相応のポストにチャレンジする。
組合
こうしたジョブ型雇用は、そもそもは米国の労働組合が労働者の権利を守るために創りだした働き方だった。ところが米国で組合の力が強かったのはいまや過去の話し。
19世紀から20世紀初頭にかけて働く人を保護するために力を持っていた組合は、1945年以降に労働条件の改善などで重要な役割を演じた。
けれど1970年代には米国は失業とインフレーションにみまわれた。そこで運輸や通信部門の規制緩和があり、労働組合を持たない企業の設立が容易になった。
ちなみに日本の労働組合のほとんどが今は企業内にある。これは日本でかつて解雇を巡って労働組合と経営者側との間に激しい対立があり、全国でストライキが起こったことから、やがて日本の労働組合は労使協調的な形に変わっていったのだ(詳細は別な回で)。
こうした変遷を経て、現在米国の労働組合組織率は13%、民間部門だけだと8.9%まで弱体化している。日本の組織率は18.2%。
このように米国は欧州に比べると組合比率がかなり低い。その理由は、米国では階級意識が低いこと、また、企業の影響力がとても強いから。
※参考文献:「アメリカと日本の労働組合」ウェザーズ, チャール 大阪市立大学経済学会 経済学雑誌別冊112巻1号
組合潰し
そして今、米国のテック企業で組合潰しがはじまっているという。
このニューズウイーク日本版(P24)によれば、これまで自由な社風で次々とイノベーションを生み出してきたテック企業が組合結成などを毛嫌いしているという。
何が起こっているのかといえば、メタ社は昨年「組合つぶし」で訴訟をおこされている。
また、企業家イーロン・マスク氏は、テスラやスペースX、ツイッターで組合結成を妨害してきたのは違法行為だと指摘されている。
さらに、アマゾンも組合支持者を次々と解雇しているという。
いずれも今米国を代表する企業だ。
従業員アクティビスト
つまりジョブ型はメリットばかり強調されるけれど、いいことばかりではないということ。ことテック企業では昨今大量解雇通知がメールで送られてきたというニュースがわたしたちを驚かせた。
米国ではたとえ解雇されたとしても、それでも転職が可能だ。けれど現在のように多くのテック企業が大量解雇をはじめると、転職も厳しい。
労働組合のない米国の労働者の権利は弱い。経営者側と対等に交渉の場に着くために必要な組合組織がそもそもない。たとえそれを急場でこしらえたとしても今は会社に潰されてしまうというのだ。
また、アマゾンでは、気候変更問題に取り組んでいた従業員が社内で組織を作り声を上げた。
おわりに
時代が変わる時、そして経済状況が悪化する時、企業も社会も変わる。これはわたしの感覚的なものだけれど、経済状況が悪化するとき、それ以前には絶対に触れなかったところに容易にタッチできる空気が生まれる。だからこそ良くも悪くも規制緩和で世の中が変化する。米国でもそれが70年代に起こっている。
働く人は労働組合がいったいどれほど労働者を守る力を持つかをのちのち知ることになる。解雇規制が殆どない欧米で、労働組合がないに等しいという状況はやはり働く個人を危うくする。けれど、米国も日本も働く人が自分たちを守るための組織があることに無関心でもある。
※最後までお読みいただきありがとうございました。
※スタエフでも話しています。
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