
アメリカと日本の「解雇」の違い
リストラの嵐が吹き荒れているGAFA。
それがずっと気になっていた。
GAFAの解雇
2023年3月7日のBloombergによれば、昨年11,000人の人員削減をしたメタは、さらに数千人の従業員を削減する予定だという。
もちろんこれはメタだけではなく、AmazonもTwitterも状況は同じ。
人員削減の理由
NHKのサクサク経済Q&Aでは人員削減の理由を以下のように説明している。
◆新型コロナウイルスの感染拡大でネット通販の需要が急拡大。それにともない小売り部門や物流センターなどで従業員が3年前の2倍に増えたが、感染拡大が落ち着くとネット通販の利用が減速した。
◆コロナ禍で自宅で過ごす人が多く広告の売り上げが伸びたが、コロナが落ち着いた今広告の売り上げが伸びない。
◆FRBが連続利上げを行い景気の減速懸念が強まると、企業は真っ先に広告費を削った。
◆メタはメタバースの開発費が膨らみ収益を圧迫。
◆マスク氏の買収を受け、40以上の市民団体がツイッターの広告主宛てに書簡を出した結果、広告配信を一時中断する企業が続出。
アメリカの解雇
米国の解雇は日本とは違う。
米国のビジネス界では企業の買収・合併と、合併後の大胆なリストラによる経営の効率化・生産性の向上は経営のイロハといわれる。
だからこそアメリカの企業は株主利益最優先で、株主への利益還元を最大にするために従業員のリストラも厭わないというイメージがあった。
法律
けれど1980年代に、相手企業の同意を得ずにM&Aを仕掛ける敵対的買収で大規模な人員削減が頻発し、地域社会が深刻なダメージを受けた。
そこから「会社は株主のもの」とする考え方への反発がおき、企業買収の規制としての州法や法律ができた。
再就職支援
アメリカには解雇規制がほとんどない。けれど大規模な事業・組織の再編では、社内に特別に再雇用支援のための組織を設置したり、新規の専用人材会社が設立される場合がある。
先のメタでも、大掛かりなリストラで社会の士気が下がっていると書かれていた。突然の解雇通知に打ちのめされるのは日本人でもアメリカ人でも同じだ。
そのため、米国では1990年代以降、企業の雇用戦略の一部としてエンプロイアビリティが求められるようになる。
それは、従業員に長期雇用を約束しない代わりに学習機会を提供し、外部労働市場において通用する強い競争力を持つ人材を育成するシステム。
たとえばGE社では、雇用は保障しないが転職適応力の育成は保障するという方針をとる。
具体的には社員を能力別に分け、そのうち上位20%と中位70%には学習機会を提供しているが、下位10%は毎年解雇するというもの。
※参考:労働政策研究・研修機構
日本の解雇
ご存知のように、日本では解雇はなかなかできない。
民法では雇用契約の解約の自由を定めているけれど、それでも使用者側の一方的な解約については、判例により大きな制約が加えられている。
判例法理
日本の裁判は乱暴ないい方をするならかなりコテコテの前例主義だ。
日本では解雇は正当な理由が無ければ権利の濫用として無効となる。日本で解雇がなかなかできないのは1975年の判決があるから。
1975年の日本食塩製造事件判決で、「使用者の解雇権の行使も、それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効になる」と判示し、これが判例法理としての解雇権濫用法理(労契法16条)となった。
つまり、この1975年の判決が今でも解雇の裁判の目印になっている。だから日本企業は今でもリストラが難しい。
※参考:『労働法』東京大学出版会 2021 水町勇一郎
おわりに
アメリカではGAFAが大規模リストラをしている。これは日本ではなかなかできない。
日米の解雇には大きな違いがある。
昭和30年代以降、日本的な雇用システムが定着するとともに日本の解雇規制は形成される。
皆一つの会社に長期間勤めあげる社会だ。だから解雇されると生きていけないほど。ただ今この日本の解雇規制も見直しがはじまっている。
個人的な感想としては、極端な解雇は働く人の労働意欲をそぎ、厳しすぎる解雇規制は働かない人を企業に生み出すことになりかねないと思う。
※最後までお読みいただきありがとうございました。
※スタエフでもお話ししています。
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