期限か、完成度か
昨日、抱えていた案件を、期限に間に合わすことができなかった。
あまり寝ていない。けれど今朝はやけに目が冴えていた。
温泉にでも行こうか、そんな話がまとまった。一旦気持ちを解放しよう、そんなことを思いながら家を出た。
やはり戸外はいい。
水の音が聴きたい。
頑張りすぎた後は、水と木の近くに行きたくなる。
川岸でしばらく水が流れる音を、ぼんやりと聞いていた。
とはいえ、食欲は、ある。
程よい量の中華ランチを食べた。
だんだん元気が出てきた。
それから温泉へ。
温泉ってこんなに沁みた?
身体中の細胞にエネルギーが行き渡る。驚くほど気持ちよかった。
露天風呂に流れ落ちる水の音だけを聞いていた。
その案件がなんとか仕上がったのが昨夜の10時過ぎ。期限は6月9日の金曜日。17時までには仕上げるつもりでいた。
けれど取りかかって気がついた、どうにも複雑だなと。慌てて本腰を入れたのが火曜日。けれどその複雑さは思った以上だった。引き返そうかと思ったけれど、進むしかなかった。どう考えても引き返す道は得策ではなかった。
予定を変更してもらおうかと思ったけれど、なんとかなると走り続けた。これが甘かった。
あっという間に約束の金曜日がやってきた。それでもお尻はみえていた。山頂から、急ぎ、くだりを駆け出した。大丈夫、なんとかなる、そう自分にいい聞かせた。
思った通り、なんとか仕上がった。少々荒めだけれどなんとかなった。
時計を見ると22時。
ほらね、大体こんなものだ。なんとかなるものだ。
遅くなったついでにコーヒーを淹れた。清々しい。やればできる。そんなことを思いながら、先方に送る前に最終確認をした。案件をプリントアウトして、コーヒーを飲みながら、23時までには送れそうだなと思っていた。
ところが、最終チェックに取り掛かって気づいた。これは違うぞ、と。当初考えていた内容より大きく膨らみすぎている。慌てた。慌てて赤ペンでガシガシ書いて、
そして、ペンを置いた。
手に負えない。
いつもギリギリ。それでも間に合う。
でもだめだ、これだけは送れない。これを送ると受け取る側の二度手間になる。だめだ、やめておこう。そう思えたのが23時半。
もう文字がぼんやり霞んで読めなくなった。
それでもいじましくも夜中に何度も目が覚めて、何度も赤入れをした。
いや、だめだ、これではだめだ。
期限を選ぶべきだったのか、完成度を目指すべきだったのか、わからない。
わからないまま外に出た。
温泉の後、お茶を飲んだ。
お腹もすいていなかったけれど、アップルパイを食べた。
話しながら、眠たくなった。
それでも、こんな時は温泉がいい。
木々に囲まれた露天風呂でゆっくり手足を伸ばした。
そして、こんな時こそ空を見上げる。
木々に囲まれて丸く広がる空は曇り空だった。曇っていたっていい。下を向いちゃだめだ。
鳥のさえずりと温泉の流れる音が、頭にこびりついた洪水のような文字をどんどん消していく。明日になれば元気になるだろう。
今日は休もう。
混乱した何かがあるときは、一度すっかり離れなきゃだめだ。混乱した何ががあるときは、一度すっかり忘れてしまうのがいい。忘れて、空っぽになって、そしてもう一度向き合う。すると金曜の23時過ぎのあの自分とは違う自分が現れる。
予定より膨らみ過ぎていたあの案件は、これからきっと奇麗にバラケて大きく育っていくだろう。
元気が出てきた。
今は、そんな予感がある。
※最後までお読みいただきありがとうございました。
※スタエフでもお話ししています。
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