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誰かを悩ませてしまっているかもしれない


誰かの行動が、人を不安にさせることがある。当の本人は少しも気づいていないけれど、相手は夜も眠れなくなるほど苦しむことがある。

などど呑気なことをいっている場合ではない。その当人がわたしだったのだから。


★ ★ ★

先月から歯科医通院をはじめた。週一で通いはじめて一月余り。口の中の大改造をしていただいている。

ところが、先日ひょんなことから治療中に先生とこんなお話をした。

「はい。以前口の中を切られたんです。舌と頬の内側です」

確かそう答えた。

すると、先生が驚くようなリアクションをされた

わたしは一瞬きょとんとしたけれど、だんだんとその意味がわかってきた。

☆ ☆ ☆

きっと先生はわたしがクレーマーだと思われていたのだろう。

もちろん、わたしも身に覚えがある。

毎度診察椅子に座るたびに、わたしは先生に手鏡を手渡していただいている。2回目の治療の日にリクエストして以来、貸していただいているのだ。

先生を悩ませた原因は、恐らくこの手鏡だった。


☆ ☆ ☆

わたしはこれまで何度か手鏡で治療の様子をチェックさせていただいている。

といっても見ていたのは自分の舌

けれど、考えてみると、先生サイドからは、治療風景をチェックする煩い患者に見えていたに違いない。

先生は実にお優しい方で、名医だとわたしは思っている。だから、わたしの方こそ、先生がわたしの行為に負担を感じられていただなんて想像すらしていなかった。

ただ、考えてみると手鏡で口腔チェックする患者なんて最悪だし、悪趣味だ。

そんな患者が毎週やってくる。

先生は憂鬱だったに違いない。


☆ ☆ ☆


わたしは以前、2か所の歯科医で口の中を傷つけられている。凡そ30年前と、4程前にもう一度。舌や頬の内側を何カ所も傷つけられた。これがわたしのトラウマなのだ。

そこで先生に手鏡を貸していただいた。そのとき先生は、

「見えないから怖いんだよね。時々子どもに見せてるんだよね」

そんな感じのことをおっしゃった。だからきっとご理解いただけたのだと思っていた。

わたしがチェックしていたのは自分の舌。過去に傷付けられたのは、自分の舌が動くからだと思っていた。ところが手鏡で覗いてみると、ちゃんと舌はあるべきところに収まっている。

ただ水を撒きながらエナメル質を削る機器が口の中に入ると毎度緊張が走る。

水が口内に飛び散り、その水が舌を刺激すると筋肉が反応するんじゃないかと心配だったのだ。

なんといっても舌は大きな筋肉の塊だ。


☆ ☆ ☆


そんな話をすると、先生が納得された。

「それは怖いよね!いや〜、そりゃ怖い」

と。さらに、

「車のアクセルとブレーキの踏み間違いをしちゃいけないのと同じでね、歯科医が患者さんの口を切っちゃダメだよね」

と言われたのだ。

そう、先生の中で、わたしが極度に緊張するわけと、手鏡チェックの謎が解けたのだった。

その後、わたしの顔の上でマスク越しに楽し気におしゃべりしながら治療をされる先生に驚いた。

こんなに陽気な先生だったのかと。


☆ ☆ ☆


知らぬ間に誰かを不安にしたり、傷つけることがある。そんなことを知った。

しかも、まさかの自分の行動が、である。

もちろん、これまで先生に向かってそんな話をしたことはない。

だいたい治療中は目を閉じて口を開けている。そもそも話せる状況にない。

それでも、気持ちを察していただけて嬉しかった。先生も恐らく相当に安堵されたのだろう。

「あのね、一週間引きずる患者さんっているんだよ」

なんておっしゃっていた。話題にのぼったのは他の患者さんだったけれど、きっとわたしもその一人だったに違いない。

患者と医者、全てのことを気軽に口にできるかと問われると、それはなかなか、かもしれない。

ただ、今回は先生とたまたま会話できてよかった。でなければ、先生にはこれからも大変なストレスを与えていたはず。

まさか自分の行動が、である。

やはり手鏡チェックは良くない。

どう考えても悪趣味だ笑。



※最後までお読みいただきありがとうございました。


※スタエフでもお話ししています。

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