これは一体何だ??~ゲリー・ケネディ、ロブ・チャーチル「ヴォイニッチ写本の謎」
ヴォイニッチ写本とは、
いつ、どこで、誰が、何のために、何を書いたものなのか、
全く分からない書物(手稿)である。
そしてその内容は、
地球上のどの言語でもない、全く解読できない文章と、
それよりさらに分からない、
地球上のどの植物でもない植物、
そして裸の妖精(ニンフ)達が風呂(?)に入っている絵、
そして意味がさっぱり分からない天体図のような図と、
曼荼羅のような図からなる。
要はオーパーツ(それらが発見された場所や時代とはまったくそぐわないと考えられる出土品や加工品)の一つである。
そしてこの度、その写本の研究書である、ゲリー・ケネディ、ロブ・チャーチル「ヴォイニッチ写本の謎」を読んだ。
ヴォイニッチ写本の事は、かなり前(10年~20年前?)に、
どこかのネットの記事か何かで知った。
もうあまり覚えていないんだけど、その記事ではヴォイニッチ手稿と呼ばれており、
確かオーパーツの一つとして紹介されていたように思う。
そして最近、成毛眞の「面白い本」で本書が紹介されたのを見て、古い記憶が呼び起こされたあと、
Twitterのとあるフォロワーさんに紹介されて、
本書の購入に踏み切ったものである。
上記3つの全てが揃っていなければ、
おそらく読んでなかったであろう本。
面白いというよりは身体にゾクゾクくるような怖さがある(これは恐らく正体が分からないものへの不安と恐怖だろう)、
が、ものすごい吸引力でむさぼるように読み進められた。
いやしかし、つくづくこれは訳の分からない写本である。
とりあえず、
「宇宙のどこかの別の星の世界で、
その星の学者が記録したものが地球に降ってきた」
とか、
「地球のはるか未来(一億年後ぐらい?)の世界で、
未来から送られてきた」(もしくはその逆で超過去からやってきた)
とか、あるいは本書でも言及されているが、
「霊界からメッセージを受けた人物が書いた」
「霊界か別の次元もしくはパラレルワールドからやってきた」
といったオカルト説も好きなんだけど、
とりあえず一旦それは置いておいて、
過去、今我々の人間の歴史とつながっている、過去の一点で、
どこかで誰かが書いたと仮定してみる。
しかし、そう仮定して、色んな可能性を思い描いても、どうしても、
「そう考えるならこれがおかしい」
というポイントが出てきてしまうのがこの写本だ。
例えば、(本書で言及されている)時代は中世ヨーロッパの、どこかの誰か、天才か精神異常者(ただしサヴァン症候群のように頭の回転が異常に早い)が書いた、
何の意味も脈絡もないノートだと考えた場合、
しかし、それにしてはこの写本はあまりにも緻密で、
その挿し絵の多さもさることながら、
ここまで架空の文字と文章を大量に書き続けられるものだろうか。
いくら天才的狂人だったとしても、途中で飽きるんじゃないか?
なんて思うのである。
また、誰かが誰かを詐欺に陥れようと、でっち上げた「偽書」という可能性もあり、本書ではかなりの頁を割いて言及されているほか、この写本が「偽書」であると断じられている別の本(ユリイカ2020年12月号とか)もある。
しかし、これも同じである。
この写本が、今の人類文明の流れの中に生きている、過去のある人物(一人か複数かは分からないが)がでっち上げた写本だとして、
ここまで詳細に、緻密に、これほど大量の情報を、
一から完全に頭の中の想像だけで描けるものだろうか?
それは余りに常軌を逸しているように思う。
そう考えると、やはりこの写本には何らかの意味があると考えた方が自然なんじゃないだろうか。
ちなみにこの写本は、インターネットで検索したら、
すぐに簡単に見つけられ、全ページをPDFとJPGで見る事ができる。
写本は200ページを超える大作だが、
本書に収録されているのはごく一部で、
しかもほとんどが白黒(ここはぜひカラーで載せて欲しかった!)なので、
本書を読む場合は、
読む前、読んでる途中、そして読んだ後にざっと見て欲しい。
特に6章や7章は、収録されていない挿し絵の説明も多いので、
実際にPDFを見ながらじゃないとピンとこない部分も多い。
各ページにはフォリオと呼ばれる番号が振られているので、
比較的見つけやすい。
ぜひ本書を読む際は並行して画像を見ることをお勧めする。
PDFを見ると、
写本の途中までは結構絵が描かれているのだが、
後半はものすごい文字の羅列であることが分かる。
先に書いた、天才か狂人が全然意味のない文字と文章を考えたとして、
ここまで架空の文字ばっかり延々とかけるものだろうか。
私がこのPDFをざっと見た時に、最初に思ったのは、
これは絵本のようなストーリーがあるものじゃないか、ということだった。
途中、ニンフ(妊婦?)が緑色の液体につかっている場面などは、
変わった絵本の挿絵のようにも見える。
しかし、だとすると、植物群もだが、
途中途中で差し込まれる、
宇宙図というか占星術的図というか、天体図のようなものは一体何なのか。
ここにものすごい違和感がある。
あるいは、(本書内にも出てくるが)レオナルド・ダ・ヴィンチのような、
専門分野が多岐に渡る学者がなんらかの科学的なものを記録したもののような気もする。
(本書では医学的実験の様子ではないかとかの仮説が出てくる)
これらの文章が全く未知の言語で書かれているとするなら難易度は非常に高いが、
本書の前半で紹介されているアプローチの一つは、
これが平文を暗号にしたものではないか、というものだ。
最初は英語ばかりに翻訳しようとしていたので、
「平文が英語だと何故分かる?」と思っていたが、
その後、見つけた時代と場所からラテン語じゃないかと推測されたり、
あるいは海を渡ってきたから元は支那(アジア)語なんじゃないかという仮説があったりして、
そういった世界各地の言語でも試しているため、
そんなアプローチもあながち間違ってないのかなと思った。
だが元に平文のある、ちゃんとした文と考えると、さらに違和感がある。
PDFを見た時も感じたが、本書を読むともっと分かる。
英語やフランス語、あるいは日本語のような、
様々なバラエティに富んだ文字(アルファベットとかひらがな・漢字)なのではなく、
写本の文字は、どうも、文字の種類が少ないように感じるのだ。
文をつくっている単語もくり返し反復されているように思うものが多い。
これでまともな文章を作れるものなんだろうか?
結局狂人が書いた意味不明の文章(意味不明の文字を頭の中からひねり出すのだからバリエーションも少ない)なのだろうか?という説に戻ってくる。
だが、狂人が書いたにしては、あまりに緻密な記録ではないか?
これが全て、想像の産物だと言うのだろうか、
という、結局最初の疑問にやはり戻ってくるのだ。
結局今のところ、「何が何だか訳の分からないもの」としか言いようがない。
どうもこの写本(手稿)、日本ではまだまだ知名度が低いように思うが、
どうやら写本の謎に迫る世界的なインターネットコミュニティができているようで、
日々新しい仮説や分析結果が投稿されているというのは心強い。
人類の英知とも言える集合知を使って、
ぜひこの写本の正体を暴いて欲しいものだ。
(追記)
写本に収録されている絵で特に気になるのはニンフ達の絵である。
植物群は、ちょっと変わった形をしてるかと思うものの、
植物の世界に素人の私は、
世界のどこか、あるいは過去のどこかにあった植物なんじゃないかと思ってしまう(それでも根っこが爪の生えた足のようなものや機雷のようなものがあると本書に言及されて再度その絵を見直したときにはビックリした!)。
それに対して宇宙的天上図はもっと異質だ。
円の中に描かれているのは一体何なんだ?
人の顔のようにも見えるが、
誰か芸術家が描いたとしか思えない(そういえば芸術家という観点を逃していた)。
しかしそれ以上に異質なのは、
ニンフ達が何か緑色の液体の中で何かやってる絵である。
液が緑色というのは何だろう。
薬草の色か、あるいは何か化学薬品の色か、
そしてその周りに描かれている物体は、
明らかに何らかの仕組みを持った装置(原始的な機械?)のように思えるのだ。
(追記2)
ところで私がこの写本の中で一番興味深いのは、
写本全体から見るとほんのわずかであるが、城の絵が描かれている部分である(本書P137)。
この写本は、植物の絵、ニンフ達の風呂(?)、宇宙的占星術的な何かの図の三種類から成り、それらがどれも現実離れしている。
例えばその世界は風の谷のナウシカのような、今の文明が滅びたはるか先にある原初的な世界となっているようにも思えるが、
城の絵が一つあることにより、その世界観が一気に広がるのだ。
城があるという事は、国があるという事であり、
国があるという事は、そこに大勢の人間(?)が住んでおり、街があり、なんらかの社会がある、という可能性を持つ。
この写本が遥か未来の文明あるいは遥か古代の文明あるいは宇宙からでも何でもいいのだが、
もしかするとそこは、たった僅かな人々と数軒の家以外は全て滅びている世界ではなく、
城の絵がある事によって、実際にはこの写本が書かれたその部屋(?)の外に、王国という広い世界が存在している、
と想像が膨らむのだ。
例えがマニアックすぎて恐縮だが、それはあたかも「王立宇宙軍(オネアミスの翼)」というアニメの中で、電車の路線図が一瞬現れた時の衝撃にも似ている。あれもあの僅かなシーンだけで異世界の広がりを感じさせた優れたシーンだった。
本書が「偽書」ではなく、本当に誰かが現実の何かを書いたものだとして、そこには、その作者あるいは写本を書いたその家(部屋)の周りに、王国を始めとした人間の世界が広がっている、そしてそれは、今の我々の文明の外にある、全く異質な世界なのかもしれない、という想像を搔き立てられる。