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ペンギン

朝、窓の外を眺めながら歯みがきをしていたら波打ち際を岬に向かって歩くペンギンが見えて(あ、これは夢だな)と思った。 彼は少し歩いて立ち止まると、後ろに背負っていた小さなリュックサックから白い貝がらを取り出して、それを器用に規則正しく並べ始めた。 せっかく綺麗に並べても、波に攫われてしまうのでは無いかと要らぬ心配をしながらペンギンを見守っていた。 そこで記憶は途切れている。 いつも通りの木目の天井が目に入ってやはり夢であったことを悟った。 その日の夜、家の裏手にある勝

    • 追憶 艶やかに笑う女

      「いる?落としちまったのだけれど」 ぽってりとした赤い唇が緩いカーブを描く。 私が首を横に振って拒否すると、女は「残念」と言いながらお菓子を口の中に放り込んだ。 意外だった。ツンとした表情を崩そうとしないこのプライドの高そうな女性は、落としたお菓子をそのままごみ箱に放り込むのではないかと思っていた。 おばあちゃんの「食べものを粗末に扱うな」という口癖をこの人も聞いて育ったのであろうことが窺い知れて、気付かれない程度にうっすらと笑った。 女性は、田舎の町であまりにも浮いてい

      • 再生ボタンと卯月コウ

        (VTuber…?初音ミクの親戚か何かか?) これが、私が初めてVTuberに出会った時に抱いた感想である。 私の住む街は海に面しており、徒歩圏内に個人経営の商店がいくつかあって、スーパーや日用品を取り扱うホームセンター、大型の商業施設に行く時は車が必須である。全国チェーンのカラオケも、オタクあるあるによく登場するアニメイトも無い。ちなみにコンビニに行くにしても車で約30分かかる。田舎である。 新刊の発売は当然の如く紙面に記載された日付よりも後ろに倒れているし、通勤・通学