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ペンギン

朝、窓の外を眺めながら歯みがきをしていたら波打ち際を岬に向かって歩くペンギンが見えて(あ、これは夢だな)と思った。

彼は少し歩いて立ち止まると、後ろに背負っていた小さなリュックサックから白い貝がらを取り出して、それを器用に規則正しく並べ始めた。

せっかく綺麗に並べても、波に攫われてしまうのでは無いかと要らぬ心配をしながらペンギンを見守っていた。

そこで記憶は途切れている。

いつも通りの木目の天井が目に入ってやはり夢であったことを悟った。


その日の夜、家の裏手にある勝手口から海の堤防近くまで続く石段を降りて、ペンギンが貝がらを並べていた辺りまで歩いてみた。当然そこにはペンギンも、彼がせっせと並べていた白い貝がらも、何も存在しなかった。

ペンギンは夢の中で何をしていたのだろうか。
どうせ海に呑まれてしまうのだ、貝がらを黙々と並べる行為に何の意味が?

夜の海は黒々としていて、民家の明かりはおろか、ぽつりぽつりと灯る街灯が僅かに反射しているのみである。

もう帰ろうかと思い立って、海面からふと視線を上に向けると地平線近くに浮かぶ大きな月が見えた。その大きな月を囲むように無数の星が散らばっている。
空にかかる雲もなく、空気がすっと澄み始めた秋の空に浮かぶのは、数えきれないほどの星であった。

星空が海に反射して白く輝く水面は、空を飛ばないペンギンが砂浜に敷き詰めていた白い貝殻を連れて行ったのか、と錯覚するほど緻密で繊細で、綺麗だった。
否、本当に何個かは白い貝殻が混ざっていたのではなかろうか。私には確かめようがないのだが。

その日は夜に浮かぶ月と星と、海を愛でるには最高の日和であった。
心の中でお礼を言いながら、特等席にて暫しのあいだ堪能したのである。







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