「さよなら」

 目の前で君が消えた。まるで、美少女が歌うアルバムのファーストトラックの歌詞にあるように、独りで世界に溶けていった。その瞬間を、ただ目撃することしかできなかった。
 僕に止めさせなかったのに、最後まで泣いていたのはなぜなのか。最後、口が動いたように見えたけど、何と言ったのか。今となってはわかる術もない、謎になってしまった。残された手紙を読んでもわからなかった。
 『今の幸せがいつか終わって、違う生活になることが嫌であれば、幸せな状態で人生を終わらせてしまえばいい。最高潮で時が止まり、私の幸せは永遠となる。』
 僕の中にいつまで残るかわからない言葉たち。
 残念ながら、君の願いは叶いそうだよ。


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 元気にお過ごしですか。
 あなたは、事務的なやり取りでは冷静で、その一方で、私には温かい一面を多く見せてくれる、切り替えの上手な人ですね。熱い心を持って、でも冷静に、淡々と生きる人。かっこよくて、尊敬できる一人でした。これからも、周りにたくさん頼られる人でいてください。

 ちゃんと最後まで読んでね。

 多くの人は、いつか終わりが来ることを想定しないし、できない。都合のいいことだけを信じて、それ以外は見て見ぬふりをする。
 恋愛は特にそうで、私もその一人でした。
 愛する人と良好な関係が続いて、このまま結婚して、死ぬまで添い遂げるんだと思い込んでしまう。その一方で、それを実現することは難しいことだと知っていました。
 あなた以前の恋愛では、私は少し冷めていたかもしれません。
 そんな中、あなたは特別でした。言葉では言い表せない感覚。深いところで繋がっている気がするというか、おそらくあなたが運命の人なのだろうと感じさせられた。
 そんな存在だったからこそ、あなたの心が以前より冷えていることを感じ取ったときは、とても不安になりました。悪い想像の連続で、夜も眠れませんでした。
 唯一、不安が紛らわされるのは、あなたと触れ合っている時間だけでした。悲しみを慈しみで紛らわす、苦味を甘味で混乱させている、表現するならそんな感覚。
 甘い時間、甘い感覚が少しでも残っている間は、まだ幸せでいられる。
 その間に、あなたの記憶に残ろうと考えました。他の女性とは違う、簡単には忘れられない形で、あなたの記憶に残りたいと考えるようになりました。
 私は、ずっとこの計画を隠してきました。
 今の幸せがいつか終わって、違う生活になることが嫌であれば、幸せな状態で人生を終わらせてしまえばいい。最高潮で時が止まり、私の幸せは永遠となる。私にとって幸せな時間は、私にとっても永遠になるし、あなたの記憶でも永遠になる。
 自分の境遇の影響を別人に押し付けるな、と思われる気がしますが、自分自身の幸せを選んで何がいけないのでしょう。これでも影響を最小限にしたつもりです。
 その結果は、すでにあなたは知っていますね。この選択をした女を、あなたはどう思うでしょうか。重い女だったとか、迷惑な奴だとか、勘が良すぎたかわいそうな人だとか。良い印象は持っていないでしょう。
 「そんなに好きでいてくれたのか、ありがとう」と思うような、呑気でサイコパシーな人だったとしたら、私はまだあなたのことを理解できていなかったということですね。悔しいですが、もしそうだったら、私は嬉しいです。

 どんな時も側にいてくれて、私は幸せでした。あなたの一挙手一投足に振り回されることが楽しく、幸せでした。
 私の選択を理解できる人は数少ないでしょう。その中の一人があなたであると信じています。
 最後まで迷惑をかけることをお許しください。

 いつか、天国で会いましょう
 愛してるよ
 またね

2022.01.12

Y.H.








(NOMELON NOLEMON「syrup」を聴きながら)



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