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「凝視」

☆この文章は「鬼神ライブ」用に創ったものです。
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「凝視」

今は、私の魂は私の内に溶けて流れ、悩みの日は私を捕えた。
夜は私の骨を激しく悩まし、
私を噛む苦しみは、止むことはない。

―― 私は山犬の兄弟となり、だちょうの友となった。
私の皮膚は黒くなって、剥げ落ち、私の骨は熱さによって燃え、
私の琴は悲しみの音となり、
私の笛は泣く者の声となった。
『ヨブ記』第30章より

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世の阿鼻叫喚を観るか
我々の暗澹陰惨たる様相を

我々はこれら全てを観て
体験経験し尽くし
味わい噛み締め

それでも
生き抜けるか!?

漆黒の闇に耐えうるか!?
十重二十重の孤独に耐えうるか!?

おのれが生きながら焼かれ
切り刻まれて
嘲笑や罵声罵倒を浴びて
生きられるか!?

命が命を喰らい喰らう
この世界の中で

君は尚 生きると

言えるか!?

我々人類という混沌なる汚濁
あらゆる様相が形相が入り混じり
蠢き犇き喰らいあう
潰しあう光景を

君は見据えられるか!?

名状し難い地獄絵巻
これは現実だ
我々の日常だ
我々の
君の
貴方の
私達の
俺の
皆の

抜き差しならぬ事実だ

君は真っ直ぐに見据えられるか!?
耐え得るか

眼をそらさず
凝視出来るか!?

   *

我々は上っ面の表層に囚われ
深淵を観ようとしない

我を忘れ
おのれを失い
命を失い
魂を失い

時に囚われ
世を呪い
おのれを呪い
他者を呪い
環境を呪い
生を呪い

絶望と孤独と悲哀と
ありとあらゆるものに

決別する

無を望み
空を望み

死を望む

   *

生という巨大な濁流に流れ 流され

自ら流れ 流され

まみれ まみれて

呑込まれ 混ざり合い

固まりあい

奪い合い 罵り合い 殺し合い

認め合い 騙し合い 愛し合い

生物の生を生き 
獣の生を生き
修羅の道を生き
絶望に呻き
苦悩に焼かれ
悲哀に咽び
失望に失望し
絶望に絶望し
希望に希望し

ただ生きる

   *

あらゆるものを凝視して生きる

我々は観なければならぬ
一切を
偏見無く
闇も光も影も
何もかも
公正に

ただ凝視する

ただ観る

そして生きる

生き抜く

踏みしめ噛み締め

生きる


                二〇〇四年六月二十三日



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