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エッセイ。ケダマの日

寒い、のであった。
昨日からの雨で当方の在はすっかり冷え込んで、ゴミ捨てに行けば息が白いアリサマである(-"-)皆様いかがお過ごしであろうか(エッセイには通常このような挨拶は入らない。慣れないことをするからである)

タンスの下段から、裏起毛のパーカーを引っ張り出した。月曜日には半袖を肩までまくる(日向小〇郎スタイル)暑さだったが、文句を言っても仕方がない。冷えは神経痛の大敵でもある。

しかし、半年ぶりに引っ張り出したパーカーは見事にケダマだらけであった。みっともないのでキッチンの大きなテーブルに服を広げ、当方、さっそくケダマ取りにいそしんだのであった。

ケダマ取りというのはこれでなかなか時間のかかるものである。状態によっては優に1時間を費やす。

「どうもこれは」ぷち「簡単には」ぷちぷち「終わりそうもないな」ぷちぷちぷち…

食器棚の引き出しから、100円ショップで大枚200円を投資したケダマ取り器を取り出した。電動で刃が回転するヒゲソリのような機械である。マシンは快音を立ててケダマを取っていく。が、どうもケダマ以外の布部分まで切り裂いているようである(-"-)。いや機械が悪いのではない。あまりにケダマが多いため、もはや布とケダマとどちらが本体なのか持ち主にも判断しかねるのであり、こうなるといっそ本体ごと焼却するのがもっとも早そうである。
腕を組んで考え、時計を見た。すでに1時間が経過している。貧しい言い方をすれば、マンガでも描いていれば古着のパーカー1枚分くらいは稼げたであろう。

ところで当方、このようなムダな時間を人生で最も愛する(-"-)


類するものに「ゴマをする」「墨をする」「イモを叩く」などがあるが、以前も申し上げたようにこれはユーダイな気持ちを生ぜしめ一時浮世を離れることができるからである。なんでもかんでも時給換算したりコスパ計算したり、ムダなことだ。唸るほどズルしてもうけた連中が毎日のように捕まっていくではないか。ケダマでも取ってるほうがマシである。
外は篠つく雨になってきた(-"-)(「篠つく」を一度で変換しなかった当方のパソコンは勉強不足と言わねばならぬ)ハゲシイ雨音を聞きながら、せっかくの仕事も副業もない貴重な午前を空費していると、いっそ荘厳なほどゼイタクな気分に浸れるのであった。いやラグジュアリーといってもいい(意味は同じだが、音がゴージャスである)。


と、その時、机の上にキャットが飛び乗った。パーカーと当方の顔を交互に見ながら「コレハナンダ」「ナニヲシテイルノダ」という表情をする。春にもらったこのキャットはパーカーを見るのが初めてなのであった。

そういえば飼っている2匹のキャッツの、急に寒くなった昨日からの変貌ぶりは素晴らしい。

服を引っ張り出しケダマを取り…などと慌てるようなことはないのである。キャッツは、まず食欲が亢進した。普段の3,4割増しモリモリと食べる。そして毛がフワフワになり、遠目にもウサギかタヌキのように膨らんだ。空気を含んで保温しているのであろう。そしてニンゲンの寝床を盗る。いや奪う、というのが正しい。そして起きている間中「アソベ」「オモチャヲダセ」と催促する。つまり食って寝て運動して寒さに対抗するのであって、まったく正しいと言わざるを得ぬ。服装で慌てたり雨の中仕事に行ったり寝ずに働いたりするのは本来、オロカシイことだ。
ただ浮世は憂世の習いにてニンゲンはそうせざるを得ず、その憂世を忘れるために当方はまたケダマを取らねばならぬのである(-"-)。

さらに20分。まあまあ、これでコンビニくらい行っても恥ずかしくないかな、くらいまではケダマがとれてきた。広げて確認する。ふむ、大丈夫だ。

と、その時、キャットがやおらそのパーカーに座った。とぐろを巻く。「オワッタカ」と言わんばかりである。

慌ててキャットをどかすがアフターカーニバルで、案の定、黒いパーカーは白い毛だらけになった。生地はポリエステル65%にてこれがまた静電気でも生ずるのかバカによく毛がつくのである。イヤガラセのようにくっつく。そしてはたいても落ちぬ。「オナモミ」というあのトゲトゲ植物が脳裏に去来するのである。
コロコロをかければ取れるであろうが、粘着テープなどしたらまた生地がケバ立ってそれこそケダマの原因になるであろう。

当方はパーカーを黙って洗濯機に入れた。

…これほど「純粋にムダだった時間」というのは近年ちょっと記憶にない( 'ω')。愛すべき日であるw。
記念のためここに残すものである。




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たくさんのサポートを戴いており、イラストももう一通り送ったような気がするので…どんなお礼がいいですかねえ?考え中(._.)