漫才の資料を探すときに困ること
漫才をはじめ、さまざまな芸能ははかないものです。端的に映像や音源がない。書かれた資料も少ない。もう見た人の記憶をたどるしかない…。最近では映像メディアがだいぶ整っているので、DVDやYouTubeあたりでだいぶ見やすくなりました。
家庭用のビデオデッキが普及したのは1980年代ですから、1970年代以前の漫才ってどうやって知ればいいんだという気になります。もちろん、テレビやラジオの放送はあったので、局に残っているかどうか、ですね。
まあダウンタウン研究をしようと思っても、彼らは1963年生まれですから、子ども時代に見たであろう1960~1970年代の漫才をどうやって調べるのか。実際、DVDが発売されるかどうかって、結局のところ「売れるかどうか」にかかっているわけで。売れるものはソフト化されるし、売れないものは放置される。どんな分野でもそうでしょう。
あとは書かれたものがあるかどうかですが、上方漫才に関しては、いくつかありますね。落語に比べたら少ないと思います。落語は伝統芸能なので書き手も多いですが、漫才は瞬間的なものなので、なかなか記録に残らない。
ともあれ、上方漫才について書かれた本を次回・次々回といくつか挙げてみます。古いものもあります。自分も入手できたので、丹念に古本屋などを回れば、そんなに高くない値段で購入できます。上方漫才を研究したい人は参考にしてください。
ちなみに、これらの書籍を見てわかると思うのですが、上方漫才に関して、実は1980年代以降に書かれたものがわりと少ないんです。このささやかな事実は、それなりに重要だと考えます。1980年といえばマンザイブームが起こった年です。つまり、上方漫才に携わる人の顔ぶれが入れ替わったのがこの前後だということです。
別の言い方をすれば、戦前・戦後世代は、1980年のマンザイブーム、直後の1982年デビューのダウンタウンに対応できなくなった、あるいは、1970年代にはみんな亡くなってしまったということでしょう。
だから、1980年のマンザイブームは一種の世代交代的な出来事で、続いて登場するダウンタウンについては、古い世代の人々はもはや言及しない(できない)ようになってしまった、といえます。こうしたことはおそらく、上方漫才に関してだけでなく、日本のサブカルチャー全般でも発生していたかも、です。
1980年代以降は上方漫才についての書籍が減ったわけですが、これ以降、目立った書き手が登場しなくなる。すなわち、文章を書ける人、記録を残していける人がいなくなる、ということなんでしょう。
上方漫才界の重鎮で漫才作家の秋田實は東大出身。実は、1980年代以前は、インテリの人が上方漫才界にはゴロゴロッといたんです。かつて、松本人志が作家の藤本義一を痛烈に批判したことがありましたよね(『遺書』を読んでください)。その裏では、インテリの先達たちが新しい漫才を評価する手がかりを失ってしまっていたのかもしれません(邪推ですが)。
では、また次回。(梅)