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聴覚障害児の言語活動におけるつまづき

聴覚障害児の特徴

1)一次障害
  音が聞こえにくい、聞こえない
2)二次障害
  音声によるコミュニケーションに困難が生じる
 例)多量な情報処理困難(記憶)
 例)誤った判断(推測などの思考の困難)
 例)少ない経験
 例)知識の寡少

聴覚障害というと見えない障害といえるが、一次障害も二次障害も見えにくい障害です。
一次障害だけなら聞こえを補う手段を考えればよいのですが、やっかいなのは二次障害です。二次障害によって思考力の遅れや判断力の欠如は社会性の習得にも困難を引き起こします。悪気なく失礼なことを言ってしまうのは社会常識を単に知らないからではないのです。
そういったことが『9歳の壁』につながります。

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9歳の壁を表す研究として、聴覚障害の世界で引用されるのが
「読字力検査」です。
聴覚障害児に読解力をみる検査をしたところ
小学校1,2年では順調に伸びるのですが3,4年生から伸びが鈍化します。一方、健常児は真っすぐ伸びます。
聴覚障害児の伸びが急激に横ばいになるのが大体9歳頃というところから
『9歳の壁』といわれています。

なぜ『9歳の壁』が起きるのか
9歳頃の国語の問題になると書かれていない登場人物の「心情を推論しなさい」といった問題が増えるからです。
そう、実は論理的に読まないと答えられなくなります。
小学1,2年の問題は書いてあることを本文から抜き出せば答えられます。ビジュアル マッチングで解けていたのですが高学年になると通用しなくなります。

もう少し詳しく読みの原因を探っていってみましょう!

1.読みに必要な思考力 ~1つ目~
  文字と意味の結びつき
理解して読むときに必要となる照合方法です
例)"きょうぶんさんぶんせき”とはなにかといわれれば
  →①知識がなければ よくわからないひらがなの羅列
  →②ひとかたまりにしたら意味として処理できる!
   でもそれには知識が必要 共分散分析
聴覚障害児はもしかしたら体験の少なさや聞こえていないことから、健常児であれば何気なく身についている知識に偏りがあり ①の意味を伴わない ただ音を読んでいるだけになっているかもしれません。

2.読みに必要な思考力 ~2つ目~
  豊かな知識が推論を支える
 例)"兄はアイロンをかけた。シャツは見違えるようになった”
   この文章からシャツはどんな状態になったと思うか
→行間を読めば、
「シワシワからパリパリになった」という答えになるだろう
背景にアイロンとはどんなものかといった一般知識があるから このように推論できるわけである。  

3.読みに必要な思考力 ~3つ目~
  関係性を表す言葉をイメージできる
上のアイロンの文の間に実は「だから(原因と結果)」がひそんでいる。
"兄はアイロンをかけた。(だから)シャツは見違えるようになった”
思考するときに必ずイメージする言葉なのである。
これは健常児は容易に気がつくが聴覚障害児には弱い点である。
これについては ろう学校などでは力を入れており 
【事実】【原因】【結果】などに細かく分けて図解し思考の流れが視覚的にわかるように工夫している。

ではどう対応すればよいのか

健常児と聴覚障害児には論理的思考力に差がでてきやすい。
それならば、聴覚障害児にもっと「から」「だから」「もし~ならば」といったような思考する言葉を私達が使うことで刺激していくしかない。
関係性を表す言葉を使って関係性を考えよう。視覚化することで理解しやすくなるならば図解しよう。
でも それだけで終わらせるのではなく きちんと言葉で考えられているか聴覚障害児に言語表現してもらう までしたほうがよい。
案外、関係性の図解をノートに書き写せていても『わかった』とは違うことがある。言葉を使って頭の中の出来事や事象を整理する作業の一手間『言語化できるか』ではじめてわかったにつながる。

~わたしが見たろう学校での関係性の言葉をうまく使った思考力の訓練~
●『~だから~だと思います』
●『~なので~と・・・』
論理を表す言葉を教室に掲示している。
子どもが発言したときには 先生がこの掲示物を指差して使って見せている
そうすることで刺激を与えている。
大人がしょっちゅう使ってこそ効果があると思う。
この言葉を使って話すと成り立つね という感覚を育てようとしている。
その他の事例 子どもが怪我をしたときに
「けがをした」「痛かった」「ころんだ」といいます。
大人はその時、「ああ痛かったね」「怪我をしたんだね」「かわいそうだね」で終わらせがちですが、そのさらに先の言葉を投げかけてあげてもいいかもしれません。
「なぜ怪我をしたの?」と原因を振り返るとか「何日くらいでかさぶたできる?」というように。 
「怪我をした」という言葉からいろいろな言葉のネットワークをつなげてあげることは、思考のネットワークを作るチャンスなのです。
ネットワークが広がれば 
「怪我をした」→「お風呂入れるかな」「ご飯食べられるかな」とさらに思考を広げるとっかかりにもなります。
「怪我をした」→「痛いね」で大人はなるべく終わらせないように。

文章を読んで真の理解に結びつけるためには
言葉の知識(語や文法)のほかに文章を把持(記憶)し推論する力、複数の情報を統合する力やメタ認知が必要です。それをしないことには言葉の力もなかなか高まりにくいです。どれか一つでも欠けると意味の構築が困難になり読みの困難につながる一因となりやすいです。

情報統合やメタ認知などについては次回詳しく紐解いていきます。

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