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推理小説の元祖:エドガー・アラン・ポー「モルグ街の殺人」を読む

最近読んだ本に、エドガー・アラン・ポー『黒猫/モルグ街の殺人』がある。
19世紀アメリカを代表する作家ポーによる小説8篇が収録されたこの短編集の中で、ひときわ私が魅かれたのは「モルグ街の殺人」だった。

「モルグ街の殺人」は1841年に発表された小説だ。
そのなかで語り手の友人として登場するデュパンという男は、豊かで鋭い思考力を持った人物であり探偵役を見事に果たしていく。

光文社古典新訳文庫における解説を引用させてもらえれば、

これぞ推理小説の元祖として世に名高い。一人称の語り手を脇役に配して、探偵と読者のつなぎ役にする手法も、ここに源流がある。あとでシャーロック・ホームズがワトソン博士との会話中に、デュパンとくらべられて対抗意識をむき出しにする。

エドガー・アラン・ポー『黒猫/モルグ街の殺人』小川高義訳, 光文社, 2006年

ということだ。

あらすじとしては以下のような内容になっている。
(*ネタバレも含むので注意!)

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パリ・モルグ街の住宅の2階で、ある母娘が惨殺される。奇妙な事件なのだが犯人の手がかりが全くつかめぬまま迷宮入りになりかける。しかしそこでデュバンの鋭い推理力が発揮され、凶悪殺人事件にしては動機が欠けていること、事件現場への侵入経路や近くにいた人々の証言についての違和感などに気づき、真犯人が実は人間ではなくオランウータンであったという事実を突きとめていく。
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あらすじからもわかるとおり、この小説は今現在わたしたちが慣れ親しんでいるいわゆる探偵モノの推理小説とは一風変わった結末を迎えている。

もし今「凶悪事件の犯人は動物でしたー!」なんていう探偵が出てきたら、えっ?まじ??という気持ちになって妙に肩透かしを食らったような気分になりそうだ。

しかしこれこそがおそらくエドガー・アラン・ポーの推理小説、もっと言えば推理小説の黎明期ならではの特徴なのだろう。

私が今回読んだ『黒猫/モルグ街の殺人』でもそうなのだが、ポーの作品はホラーにも分類できるようなオカルティックな怪奇小説が多い。
近代化の反動として湧きあがった不可思議な現象への興味と、人間の思考や理性への信頼がせめぎあっていた時代だったのではないだろうか。

私なりにこの「モルグ街の殺人」を解釈するならば、人間の合理的思考力の礼賛と、野生性(辺境に潜む野蛮な存在)への内なる恐怖が同時に描かれた作品なのである。


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