「蛍」

おはよう、うめです。

今日は小学校のときのちょっと不思議な話。

「蛍」

俺が通っていた小学校への登下校のルートで山の中を通らなきゃいけないのだが、そこでは今頃になるとホタルが夜飛ぶことで有名だった。
そのホタルを初めて夜に見に行く日の話。

その日、いつも通り小2の俺は一人で下校していると森の入り口の前に小さな階段がありそこを通って森に入るのだが階段のよこに虫かごを持った野球帽を被り魚釣り用のベストを着た60くらいのおじさんが立っていた。

普段、その森ではほぼ人と出会わないし虫かごを持ったおじさんなどなおさら不思議であり奇妙だった俺はゆっくりその人の横を通り過ぎようとしたとき、
「赤く光るホタルって見たことある?見る?」
とおじさんが話しかけてきた。
まず、生のホタルさえ見たことがなかった俺は少し惹かれ
「うん」
と言ったがおじさんは
「でも、まだ光ってないなあ」
と虫かごを見ながらいったが俺はそれを見て怖くなって
足早に帰路についた。
虫かごには何も入っていなかったのだ。

その晩、ホタルを友達Sくんと見に行く約束をしていた俺は森のホタルの出る川に行った。
そこにはもうすでに10人ほどの人がいてホタルは無数に緑色に光っていた。

まだSくんが来ていなくて暇だった俺はどこまでホタルがいるか気になり誰も人がいない上流に行ってみるとそこには少ないがホタルが光っていた。その中で薄く赤く光っているホタルを見つけた。
興味本位で近づいてみてみるとそれは月明かりとホタルに照らされ血肉を赤く反射させたSくんの死体だったのだ。
呼吸することを思い出し
「はっ」と言いかけたとき
耳元で
「やっと赤く光ってくれた…きれいだ」
と階段でのおじさんの声で聞こえたのだ。

それからどれくらいそこにいたかわからないがホタルを見に来ていた大人たちが赤く光るSくんの周りを囲んでいた。そのときには気づかなかったが今思うと彼の身体にはびっしりと大量のホタルがくっついていた。
俺はそのとき何故かSくんの死よりもホタルは人間の美しさのためのものではなくただの虫でそして、生きているんだという思いが強く残った。

今も毎年事件があったせいか誰も見に来なくなったホタルの灯る川に一人で来ている。
光を楽しむのではなく本来の蛍を楽しむために。

おしまい。

さようなら。

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