「夕影」

はい、うめです。

これは小学生終わりの頃の話。

「夕影」

俺は小学6年のとき素行の悪い友達と何故か遊んでばかりいた。今考えれば、それは自分がいじめられないために気に入られようとしていただけだったのかもしれない。
小学校最後の授業の後、いつもの友達とは遊ばずに小学1年から6年間友達のYくんと遊ぶことにした。中学は誰とも違う学校に行くため、その友達たちと縁が切れるからいじめられないことを確信し本当に遊びたいYくんを選んだのだろう。

授業が終わりYくんの家で遊ぶことにした。6年間友達だったが彼の家に行ったことがなく、初めてでこれが最後だと思った。
Yくんは先週家族で行った山登りの話をしながら歩いている。
話の途中で
「着いたよ」
と言い路地裏をそそくさと抜けていく。

付いた2階建ての小さな古いアパートの1階の奥。
扉の前の洗濯機が今にも壊れそうな音を立てている。
Yくんがドアを開け中に入ったら彼の母親が迎えてくれた。
中に入ると汚くはないが物で溢れていて部屋は狭い。

ある程度携帯ゲームで遊んだとき、Yくんの弟が帰ってきた。
その子は元気溢れんばかりに部屋に飛び込んでくると
甲高い声で話しかけてくる。
正直、その声で頭が痛くなるほどの不快感があり早く黙ってほしいと思いながら一緒に遊んでいた。
ふとYくんの母親に目をやると忙しそうに家事をしている。

そうしていると、男の人が玄関から入ってきた。
Yくんの父親なのだろう。
Yの母のいるキッチンと俺たちがいる部屋のちょうど間に立ち
「クビになった。」
突然、そう言い放った。
だが、Yの母は話を聞いていないように振り返らず
「そうなの」
と言い
Yくんと弟は何も変わらずただゲームに集中し不快な甲高い声を上げ続けている。
俺だけが彼を見ている。
Yの父は持っていた少し錆びた家の鍵を握りしめて
こちらの部屋に入り俺の前を通り過ぎYと弟に近づいてゆく。
そして次の瞬間、俺は耳を劈くほど不快で甲高い悲鳴で耳を抑え目を瞑っていた。

徐々に悲鳴が止まっていくにつれてゆっくりと目を開けると
彼が握っていた鍵が弟の喉を10cmほど切り裂き、途中で止まっていた。
床には大きな血溜まりを作り出している。
Yの父はその場から立ち上がり呆然としている。
どのくらい時間が経ったか分からないが
夕日が窓から差し込み息子を殺した父の夕影が俺にかかったところでやっと我に返る。
立ち上がろうとするが腰が抜けてしまっている。
夕日にとりこまれたかのように輪郭がぼやけて赤く染まっているYの父はやっとこの家に家族以外がいることに気づいたようでふり返り
「ごめんなあ」
と呟くと
喉からこぽこぽと静かに音を立てて血の流れる弟を抱え
奥の寝室へと消えていく。

扉が閉まる音と共に立ち上がり誰を見ることもなく玄関で靴を履く。ふと靴箱の上を見ると山登りの時の家族写真が飾ってある。
4人とも楽しそうに笑ってピースサインで写っていた。

外は暗く静かで穏やかだ。

そのままの足で家の近くの遊具のない公園に行った。
この公園の下には遺跡が埋まってるらしい。
土から掘り返せば何があったか見れるが遺跡は雨風で風化してしまう。
だからこそ公園しか作れない。全貌を見ることはない。
公園を作ることでただ守っているのだ。
壊れるのを恐れて無いものとするか、存在することを確認し壊れるか。

ベンチに座りただ時間が流れるのを待った。
夜風が体に当たるのを感じるだけ。
空が明るんできて立ち上がる。
朝日は顔を出しあの時の夕日と同じ顔をして照らす。

家路に夕影を落としながら俺は家に帰った。

おしまい。

さよなら。

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