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ローソンとあんトーストと私

 好きなパンはあるが、パン好きを名乗れるには程遠いと思っている。基本的に米派の私がパンを食べるのは月に2、3回ほどで、そのほとんどがコンビニのパンだ。そんなライトユーザーである私のお気に入りはローソンのパンだ。ここ最近「マチノパン」という素材や製法にこだわったシリーズが出てきたが、もう何年も前からローソンのパンはおいしいと思う。というのも私は「あんトースト」という10年以上前にローソンで販売されていたパンの大ファンなのだ。あんトーストとは名前のとおりトーストにあんことバターだかマーガリンだかをサンドしただけのシンプルな菓子パンだ。食パンを対角線でカットした三角形をしており、サンドイッチのようなパッケージが特徴的だった。

 あんトーストとの出会いは学生時代に遡る。友人が好んで食べていて、そこで私はあんトーストの存在を知った。彼女はローソンの店頭であんトーストを見かけるとニコニコしながら手に取っていた。「あんトースト」と呟く彼女の言葉は語尾に音符マークがついていそうなほどご機嫌なものだった。このパンはこんなにも人のテンションを上げるのか!と衝撃を受け、私もあんトーストを買ったのが最初だった。とりたててあんこ好きという訳ではない私は、このきっかけがなければ手に取らなかったと思う。食べた瞬間、友人の気持ちがわかった。ああ、これはハマるよなと本能的に理解できた。ややハードめなこんがりとしたトーストにあんこの優しい甘みとバター(あるいはマーガリン)の塩気がタッグを組んで絶妙なハーモニーを奏でるのだ。素材がそれぞれの良さを最大限に発揮し、かつ互いを引き立て合っている完璧な世界が三角形のパンの中で成立していた。それはそれはおいしかった。こんなおいしいパンを教えてくれてありがとうと私は友人に感謝した。あんトーストの素晴らしいところはそれだけではない。シンプルゆえに飽きがこないのだ。元々私はミーハーで飽きっぽいのだが、あんトーストへの情熱は変わらなかった。定番商品のあんトーストはいつもパンコーナーに居てくれた。

 そんな私に転機が訪れた。学校を卒業すると同時に引越して、引越し先の生活圏にはローソンがなかったのだ。そのためローソンに行く機会がぐっと減った。1年以上ローソンを利用していないという日々が続いた。そんなある日、久しぶりにローソンに立ち寄る機会があった。パンコーナーの前を通った私は久しぶりにあんトーストが食べたくなった。パンの棚を探したが、あんトーストはなかった。ないとなると余計に食べたくなるのが人の性、それから私はローソンを見かけるとあんトーストを探した。あんトーストはいくら探しても見つからなかった。どうやらずいぶん前に製造終了したらしい。

 あんトーストがローソンの店頭から消えて久しいが、未だにあんトースト以上に好きになれるパンに出会えていない。もちろん他のパンもおいしいのでその時々のお気に入りはあるけれど、それでも心の片隅にあんトーストは存在し続けた。あんことバターがサンドされたパンを見つけるとあんトーストに思いを馳せた。似たパンはあれど、なかなか食指が動くものはなかった。それらのパンはふんわりした食感を謳っているものが多く、あんトーストのハードな食感が好きだった私の心にはいまいち刺さらなかった。

 最後にあんトーストを口にしてから10年くらい経とうとしていた今年の春、私はローソンであんトーストの面影を見た。冒頭で書いた「マチノパン」シリーズより、「あんことバターのフランスパン」なるものが登場したのだ。トーストではないものの、「あんこ」「バター」「ハードな食感」というあんトーストにおける私の大好きポイントを押さえている。さらに、あんトーストの生みの親であるローソンのパンであることに私の期待値は高まった。さっそく買って食べてみた。

 ああ、ローソン!ありがとう!!

 あんトーストを初めて食べたあのときに匹敵するほどのおいしさだった。あんトーストがさらにアップデートされて帰ってきたようだった。

 それから私はローソンに行くたびにあんことバターのフランスパンを買った。幸運なことに現在の住まいは最寄りのコンビニがローソンだ。文字通り足繁く通い、あんことバターのフランスパンを必ず購入し、売り切れのときはがっくりと肩を落とす毎日を過ごした。

 コンビニの商品の移り変わりは速いもので、夏が始まる頃にはあんことバターのフランスパンは店頭に並ばなくなった。諸行無常を嘆きつつ、この記事を書こうとローソンの公式サイトを訪れた私の目に朗報が飛び込んできた。

マチノパン あんことバターのフランスパン 9月29日発売

 

 ああ、ローソン!ありがとう!!

 9月29日、私はあんことバターのフランスパンを買いに、またローソンへと走る。


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