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創作童話 王様とレイラ

昔ある国に、レイラという名の、貧しいけれどいつも希望を持っている、心の優しい娘がいました。レイラはお城のお庭係のおじいさんと二人で暮らしていました。

ある日、レイラがいつものように、美しい声で歌を歌いながらバラの手入れをしていると、王様とお妃様がバラの庭園を散歩されました。レイラの歌声をたいそうお気に入られたお二人は、毎日それを楽しみにしていました。王様はお妃様をまるで宝物のように大切にされて、幸せに暮らしていました。レイラも嬉しくてたまりません。大好きな王様が幸せで国中の人たちが豊かで平和に暮らしていたからです。

ところがある日突然、お妃様が病気でお亡くなりになってしまったのです。王様のお嘆きはそれはそれは深く悲しいものでした。

王様の悲しみは大きく、大切な国の仕事も手につかず、毎日部屋にこもったままでした。レイラは何とか王様に、また以前のように立派に国を治めて、何よりも元気になってもらいたいと心から思っていました。

王様は部屋から一歩も出なくなり、国の様子が一体どうなっているのか全く分かりません。周りの大臣たちは、「これ以上王様に少しでも悪い事は言わないでおこう」と話し合ったので、みんながいつもと変わらずに平和に暮らしていると嘘をついていました。

でも本当は王様が姿を見せないのをいいことに、他の国から悪い人たちがたくさんやってきて暴れ放題、みんな恐ろしくてあまり外に出ないので、国はだんだん貧しくなりみんな苦しい生活をしていました。早く王様が元気になって国を平和に治めてもらいたいと誰もが願っていました。

お付きの者たちは皆で相談して王様のために楽しい舞踏会を開くことにしました。ただでさえ食べ物が少ないのに、国中から食べ物やお酒がかき集められました。いっそう苦しい生活を余儀なくされた人たちも王様のためと、みんな我慢をしました。

王様が喜んでくださるように、遠くの国から懐かしいお友達を呼ぶことにしました。たくさんの人たちがやって来て、王様はたいそうお喜びになり本当に楽しい時を過ごされました。けれど、みんなが帰ると、なおさら抑えていた悲しみがますます溢れてくるばかりでした。

6月になりお城のお庭にバラの花が咲きました。それは見事なバラの花でした。でも王様は外に出てこないのでそのバラを見ることもありません。しかしレイラの歌声は聞こえていました。王様の心が少しでも明るくなるようにと、バラの花を切って王様のお部屋に飾っていただこうと思い、庭にやってきました。

レイラがバラの花を1本また1本と選んでいると、バラの花の中で何かがキラリと光りました。花をかき分けてみるとそれは見事な今まで見たこともない金色のバラの花でした。この国の昔からの言い伝えに、金色のバラは1000年に1度咲き、そしてそれを森の湖に投げ込むと、真実の姿が見え、何でも願いが叶う魔法の鏡を手に入れることができると言うのです。

その鏡があれば「お母さんに会える!」レイラはそう心の中で叫びました。レイラが生まれてすぐに戦争があり、その時レイラのお母さんは遠い国の悪者に連れ去られ、行くえがわからなくなったままでした。一度もお母さんの顔を見たことのないレイラにとって、それは本当に夢のようなことでした。

でもすぐにレラは思い直しました「そうだ!鏡は王様にさし上げよう。本当の国の様子を、人々の貧しく苦しい生活を見ていただこう!そして元の王様に戻って、立派に国を収めていただけば、国中のみんながまた幸せになれるわ」

レイラはすぐに、深い森にやってきました。昼でも暗く、大人だって恐ろしくてこの森へは誰も入ろうとはしません。でもレイラの心の中は希望で溢れていました。「魔法の鏡でみんなが幸せになれる」そう思うとちっとも怖くはありません。希望は心に勇気を与え、前に進む力となってレイラを励ましました。

どんどん森の深くに入っていくと、小さいけれどとてもきれいな湖がありました。レイラが金のバラを湖に投げ入れると、湖の中から森の女神が出てきてこう言いました。「よくここまできましたね!この魔法の鏡を持っておゆきなさい、この鏡は真実の姿が移り何でも願いが叶うのですよ。ただし、心に夢や希望のない者が見てもただの鏡でしかありません。そしてこの鏡はたった1度しか魔法は使えません」

「ありがとう女神様」そう言うとレイラは暗い森の中から、明るい希望の青空の下へと走っていきました。

レイラがお城につくと、この鏡を王様に見ていただくのにどうしたらいいか考えました。王様はもうずっと長い間、夢や希望と言う言葉さえ忘れてしまっているので、「心に夢や希望のない人が見てもただの鏡でしかない」と言われて、どうすればいいのかをいろいろ思い巡らせました。

そしてついにレイラは答えを見つけました。王様に手紙を書いたのです。

『王様どうか私の最後の願いを聞いてください。もう二度とこのようなお手紙を差し上げる事は致しません。私は遠い国へお母さんを探しに参ります。これから先どんなことがあろうとも、お母さんを探し出すまで決して諦めません。つらく苦しい旅であっても最後まで夢を捨てずに歩き続ける覚悟です。自分の力で自分の心のままに、私は旅を続けて行きます。どうか王様、お顔上げて周りを見てください。どんなに周りの者が辛くやるせない気持ちでいるのかを知ってください。みんな王様の幸せを願っているのです。国中の人々の姿を見てください。そしてもう一度、心の中が夢や希望でいっぱいに溢れている王様であっていただきたいのです。この鏡は何でも願いが叶う魔法の鏡です。どうぞ王様の願いをおかけください。心から王様の幸せをお祈りしています。 レイラ』

手紙を読んで、王様の心がパッと明るくなりました。王様の願いはただ1つ、お妃様にもう一度会いたいと言う事だけです。すぐに王様は鏡を手に取ってみました.
しかし、鏡の中に見えたのはお妃様の姿ではなく、人々が貧しく苦しんでいる姿や、お付きの者達から聞いていたのとはまるで違う、荒れ果てた国の様子でした。王様は本当に驚きました。長い間お城の中から出ていなかったので、まさかこんな風になっているなんて思ってもいなかったのです。
王様はいつまでも悲しみに沈んで自分のことしか考えずにいたので、人の心を思いやることができなかったのです。王様は恥ずかしくなりました。
「レイラは私のためにこの大切な魔法の鏡をくれた。人々の幸せを心から願ってくれていた、それなのにこの私は」

王様の心に小さな光が灯りました。「みんなが幸せになるために、私がなんとしても立派に国を収めてみせる」王様は心に誓いました。そして王様は、「どうか国中のみんなが幸せになりますように」と魔法の鏡に願いました。

その後、王様が元気になり国が栄え、皆が幸せで平和な国になりました。レイラは二度と王様の国には戻りませんでした。
毎年6月になると、お城のバラが見事に咲きます。王様はそのバラを見るたびにレイラ思い出したそうです。

おしまい

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