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うましき台所帖 第6回 「麹一年生。鈴木百合子さんとつくる麹料理」レポート

うましき台所帖とは?

2022年7月より、秋田市文化創造館の1階キッチンスペースを拠点に開催している料理教室。毎月、講師を代えて開催しています。(2023 年3月までの全9回)ここで学ぶのは料理の手順やコツだけではありません。ともに手を動かし、味わいながら、講師と参加者がともに語り、学び合い、この土地の魅力や生き方をあらためて考える場です。


第6回 麹一年生。鈴木百合子さんとつくる麹料理 
■講師:鈴木百合子さん(横手市)

■ 日時:2022年12月25日(日)
■ 場所:秋田市文化創造館 1 階 コミュニティスペース


今、大注目の「発酵文化。日々の食卓に並ぶ、漬物、味噌、酒などの発酵食に欠かせないのが「麹(こうじ)」です。講師の鈴木百合子さんは横手市の麹屋「羽場こうじ店」に生まれ、麹を使った飲食店「くらを」を営んでいますが、今年からは麹の仕込み現場にも入っているといいます。
私たちの食を支える麹は、どんなふうに作られているのでしょう?
そして、麹を使った調味料「三五八(さごはち)」の作り方と、それを使った料理を教わります。


麹ってどんな働きをするの? 三五八ってなに? 

前半は、麹に関する座学からスタート。
「麹とは何なのか?」「どんな働きをするのか?」「麹を使うとなぜ美味しくなるのか?」などを、百合子さんの言葉を通して、学んでいきます。

その後は三五八作り。三五八とは、麹8、ごはん5、塩3の割合で作られた調味料。これを漬け床や味付けに使うと、お料理が、簡単で、美味しく、長持ちするとのこと。
この日は、三五八そのものを作った後、「野菜の三五八漬け」「三五八ポテサラ」をみんなで作り、百合子さんお手製の「三五八ミネストローネスープ」の試食も。
学び、作り、味わい……三五八の奥深さを体感できる時間となりました。

後半は、三五八の料理をいただきながら、百合子さんのお話を伺っていきます。


トークの時間

【体を作るものは、足下にある】

私は、横手市の麹屋「羽場こうじ店」に生まれましたが、家業を継ぐという立場ではなかったので、結婚して県外に住んでいたんですが、2010年頃、病気をしてしまって、その療養を兼ねてUターンしました。

子どもと主人も一緒だったけれど、私は体調が悪くて家事もできない状態で、母にご飯を作ってもらっていたんですが、ある日、お味噌汁を飲んだ時に胸のあたりがぐわ〜〜っと熱くなって、「食べたものが体に滲みる」という感覚を味わったんですね。

そこで気づいたのが「食べないと元気になれない」ということ。それからは、食べることにすごく興味が湧くようになって、あらためて母が作ってくれるごはんを見てみたら、麹が使われているものがいっぱいで。「そうか、うちの仕事って、人の健康を作る仕事なんだ」と思えるようになったんです。

すると、麹屋を営む両親の姿が美しく見えるようになって。田んぼに牛の鳴き声が響いているだけのような風景も、すごくいいものに感じられて「体を作るものというのは自分の足下にあるんだ」ということにも気づけた。そして、そういうことを伝えていきたいという思いから、2013年に「くらを」という飲食店を始めることにしたんです。そこから、あっという間に10年が経とうとしています。

横手市増田にある「羽場こうじ茶屋くらを」


【麹屋の仕事】

麹は、米を洗い、蒸して、菌を混ぜこんで、簡単に言うと保温するとできるんですが、この保温するところが肝。麹のサポートをするような仕事で、うちは、一箱1.5kg入る木箱330個に米を分けて、それを小さな石室に入れて保温するんですが、温度や湿度、外気温をみたり箱を快適な温度に移したりしながら、45時間。子どもを育てるように面倒を見ていきます。


もともと麹屋というのは、麹を売ることが仕事ではなく、預かった米を麹に加工する、加工業だったんです。
地元でがっこを漬けるお母さんたちは、一度に30kgくらい漬けるので、「この米、麹にしてけれ」と、米を持ってくる。うちではそれをお預かりして、麹にして戻す。曾祖父のときは100%加工業、祖父のときに加工業+販売業、父の代で販売業のほうが多くなりました。    

今、父が76歳。もうそろそろ現場から離れることも考えていかなければいけないところですが、これまで10年かけて、私は「いい麹」というのがなんなのかはわかったし、その使い方もわかったと思っています。でも、いい麹を「作る方法」を知らなければ、胸を張って麹をみなさんに伝えることができないのでは? と思って、この春から麹作りの現場にも入るようになりました。

【麹の未来】

現場に入るようになって感じるのは、麹屋って、この先成り立つの?っていうこと。
今はスーパーがあるから買い物ができるけれど、昔の人は食べ物はとっておかないと食べられなかった。そういうなかで、発酵食品っていうのは保存食だったんですよね。美味しさのピークを後ろに延ばして、後からでも美味しく食べられるようにする。そこへ、地域でいっぱい穫れる米を使う。そうやって、季節や自然を大事にしながら暮らしてきたけれど、決して、「文化を残そう」と、やってきたんじゃなくて、「結果、文化になった」のだと思うんです。

くらをで提供される食事は、三五八をはじめ、麹がたっぷりが使われている。

でも今、たくさん麹を使っているのは、毎年何十キロも漬物を漬ける、腰の曲がったおばあちゃんたちなんですよね。いい麹を作る人になる前に、麹を使う人がいなくなったら、私がこれから父から教わろうとしていることって、意味あることなのかな? 世の中にはこんなに調味料があるなかで、どういう形で麹を残していくの?って不安になってくるんですよね。

でも、そこで立ち返るのは、自分の体が治ったときの感覚なんです。母が私のために味噌汁を作ってくれたように、家族が喜ぶからっていう理由で麹が使われるのだったら、続いていけるのかもな……と思えるんです。
みなさんが、家族に美味しいものを食べさせたいというときに「そうだ、うちには麹があった!」と、なってもらえるように、麹のことを伝えていけたらと思っています。


参加者の声

●働いているときは、食べ物って「食べられればいい」という感覚だったけれど、今、時間ができてきて、作ることが楽しくなってきたので、もっと上手になっていけたらいいなと思いました。

●麹が、どれだけ大事に作られてきたのかがわかって、ますます大事にしていきたいとおもました。麹を使った、優しい、シンプルな味の料理を続けていけたらと思いました。

●麹の料理は、食べていて馴染む感じがして、DNAに響くものなのかな、と思いました。

●寒麹や塩麹だけで、こんなに美味しい料理になると知って、驚きました。まだまだ知らない人がたくさんいると思うので、今日参加した方がそれを伝えていって、その輪が広がっていくといいなと思いました。

●働きながら子育てをしているので、短い時間でぱっと作らないといけないというのが大前提ななかで、この三五八は大活躍しそうです!

●今日教わった料理、帰ったらすぐに子どもと夫に食べさせたいなと思いました。私は、母やおばあちゃんから、麹を使った料理を作ってもらった記憶はありませんが、将来は三五八がうちの調味料として当たり前にあるような生活ができたら。それを、子供たちも使うようなっていったらなと思いました。

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