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ひとり出版社創業日記⑥「生き物を描く〜パラアーティスト・木下晃希」

こんにちは、UMA(ゆま)です。「来年、ひとり出版社を立ち上げることが目標です」と昨年、2023年の春にnoteで宣言してからの2024年。自分に言い聞かせるように周囲に伝えてきたのがよかったのか、年明けからわりにせっせと動いて、3月に無事に合同会社 Studio K を設立しました。その経緯の記録、第6回です。

といっても、今回はやや番外編といいますか、Studio Kの第一作目として画集を作る予定の甥っ子アーティスト、木下晃希を紹介するドキュメンタリー番組がMBS毎日放送で制作され、現在どこでも、TVerで見られるようになっているのでお知らせさせてください。

無料で複雑な入会手続きなどもないので(うれしい〜)お気軽にどうぞ。

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MBS毎日放送 映像´24『いきものを描く〜パラアーティスト・木下晃希』

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以下、番組紹介文です。

西宮市の木下晃希さん(23歳)の絵が注目を集めている。絵具や水性ペンで、キリンやシマウマなどの野生動物、鳥・カエル・魚など、さまざまな生き物を生き生きと描く。写真を見ながら輪郭を一筆で描き上げ、個性的な色使いで鮮やかに仕上げる。その絵は見る人を幸せにし、だれかに話したくなる不思議な力を持つ。 晃希さんには重度の知的障害と発達障害がある。会話はあまりできないし、じっとしているのも苦手だった。しかし、絵を描いているときは別。完全に集中し、何時間も描き続ける。「この子は将来どうなるのだろう」と不安だった両親は、晃希さんが幼稚園の頃に初めて描いたキリンの絵に才能を感じ、絵を描く機会を与え続けてきた。現在は作業所に通いながら、夜や休日に創作活動を続けている。 晃希さんはパラアート(障害者芸術)展などで数々の賞を受け、その作品は米国発のシューズメーカー“KEEN”の商品デザインにも採用された。2023年9月に初めての個展を東京で開催すると、30点の作品が数日間で完売した。 そんな周囲の評価を知ってか知らずか、彼は慢心することも周囲に迎合することもない。ただ自分が描きたいから描く。それが晃希さんのスタイル。その絵の魅力と、忙しいのにマイペースな1年を追った。

MBSドキュメンタリー「映像」シリーズ 紹介文より
作画している時の様子 ©️Kenji Kinoshita
セスジキノボリカンガルー ©️Koki Kinoshita

番組の制作にあたっては、1年間、家族に寄り添って、とても丁寧に取材していただきました。どんな小さなイベントでも、朝早くても、夜遅くても、来てくださいました。取材回数は20回以上、映像は50時間以上になったとか。私自身も写真家、ライターとして遠くはない仕事をしているだけに、それがどういうことか、よくわかります。愛とか情熱とか、つまるところそういう強い思いがないとできないこと。ディレクターの亘さん、クルーのおふたりにはほんとうに頭が下がります。

そのディレクターの亘さんがお書きになった記事が放送前に毎日新聞に掲載されました。

ただ好きだから描く、描きたいものだけ描く そこにいて何も語らない
 
 始まりは友人からもらった展覧会のフライヤーでした。草原で物思いにふけっているような水牛の絵。ユニークな色遣いで、とぼけた顔が何かを語りかけてくる不思議な魅力があります。この画家を取材したいと直感的に思いました。

 画家の木下晃希さん(23)には重度知的障害と発達障害があります。彼の描く魚や鳥や動物たちは、今にも動き出しそうなぐらい生き生きとして優しく、個性的な表情をしています。作品は、アメリカのシューズブランド「KEEN」の商品デザインに採用されたり、東京で開いた初めての個展であっという間に完売したり、多くの人の心を引きつけます。

 でも本当にすごいと思うのは、どんなに称賛を浴びようとも、慢心することも迎合することもなく、ただ好きだから描く、描きたいものだけを描くという姿勢。「表現とは何か」「アートとは何か」を問われている気がします。私に彼のような才能があるならきっといい気になって、人に受ける絵を描こうとするでしょう。晃希さんの平常心と純粋さは、どんなに修行しても得られない境地であり、神様から与えられた恵みです。

 晃希さんは何も語りません。ただそこにいて、果てしない思索の糸口を与えてくれる人。そんな晃希さんの世界を多くの方にのぞいていただきたいと思い、制作した番組です。(ディレクター 亘佐和子)

毎日新聞 2024/4/21 大阪朝刊  / らいよんアネックス

TVerでの配信、私も遅ればせながら拝見しました。焦点が当てられているのはパラアーティストの晃希ですが、根底に描かれているのは、ごくありふれた家族の物語です。じつは優しいもののやや愛想に欠ける父親、素直で人づきあいがじょうずな母親、まじめでスポーツが好きな兄、自由で絵を描くのが得意な弟。兵庫県西宮市という、何もかもが適当にいい感じの街。泣いたり笑ったり、時には死にたいくらい辛かったり、でも周囲の人たちにふわっと救われたりーー。

文脈はまったく違うものの、最近の映画「Perfect Days」をふと思い出しました。物事を斜めから見る癖がある私はついつい「Perfect」の意味を詮索したりしていましたが、素直に受け止めるなら、このドキュメンタリーから浮かび上がるのも、社会というパッチワークの尊い一片をなす「Perfect Days」のような気がします。

すごいでしょ、とか、大変でしょ、とかいう見せ方はまったくなく、普通に見えても個々は特別で、その中であたりまえの営みはじつは難しく、それだけに尊いということが心に残りました。広い水平を見わたして、やわらかい光を向けてくださったこと、とてもありがたく思っています。

見終わってから、こころの中に小さな灯りがともるような作品です。5月14日までご覧いただけます。GW中のお時間があいた時にぜひ。

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