京王線・新宿伊勢丹行き

雨ホントに嫌い。特に秋は最悪。この前渋谷で声かけてきたジジイくらい最悪。キモかったなあいつ。いい年こいていつもウマスタ見てるよ~じゃねーよ。mixiから一生出てくんな。

あと朝も嫌い。外が少しずつ明るくなってく感じね。こっちが気づかない間にジワジワ変わってくのなんか陰キャみたいだよね。アグネスタキオン先輩かな?うえ、朝から嫌なもの思い浮かべちゃった。

てかなんでこんなに髪の毛ハネてんの。身体の一部が思い通りになんないのほんと無理。もしカレンがドブスの運動音痴だったら「でも思い通りにならないのが人生だからぁっ(爆笑)」とか言ってやり過ごせたと思うけど、カレン可愛いしスポーツ万能だし。髪の毛も完璧じゃなきゃやじゃん。しかも今日雨でしょ?アイロン意味なっ。ヘアオイル切れてるし。あーなんか韓国コスメ飽きたな。キューティクルが傷みます、ってウマスタで見た。ウマスタだったっけ、うん、たぶん。

てかこれ遅刻かな?1限数学?どうでもよすぎ。今やる気出すくらいなら死んだほうがマシ。これはガチのマジ。秋の雨の日の朝に何かしようと思える社会のほうが間違ってる。でもそんなこと言ったって今日も学校は始まるし電車は走るしウマスタのストーリーは24時間で消える。

いっそカレンがウマスタで喚いちゃおっかな。「#秋の雨の日の朝は最悪」ってタグ付けて。カレン300万人もフォロワーいるしちょっとは影響あるかも。でもフォロワー減ったらやだな。ダサいことだけは絶対やだ。

「ねーどっかでマヤ見た?」

2限の教室移動のときにクラスの子(名前は知らない)にそう訊いたら「わかんないです」って。なんでもいいけど目見て言えば?あと謎敬語ね笑

あ、なんかLINE来てる。マヤかな。

トレーナー:お前、また数学サボっただろ。○○先生が怒ってたぞ。文武両道ができないならトレーニングは中止だ。

は?うざ。

ほんといつもタイミング悪いの何?才能?そっちはカレンのこと育成(笑)してるつもりかもしれないけど、カレンお前の話とか何にも聞いてないから。聞いてるフリしてイヤホンでビリーアイリッシュ聴いてるから。マジのBad Guyはお前だっつの。

あ、間違えた、"お兄ちゃん"♡

カレン:お兄ちゃん怒った?

トレーナー:いいや。俺はただお前のことを思って忠言しただけだ。

カレン:えーやばい 嬉しい 泣きそう ありがとお兄ちゃん♪

トレーナー:青春の涙は成長の糧だ。いっぱい泣いて、それからいっぱい走りなさい。

待ってwwwwwwwww死ぬwwwwwwwwwwwwwwwwwwww何食ったらそんなポエム思いつくのwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

や、ていうか冷静に考えて腹立つな。

個チャにポエム送ってくる奴ってだいたい自分のことしか考えてない。自分が気持ちよくなったらそれで終わりで、読まされる側の気持ちなんか少しも考えてない。尊敬してる人に同じことできる?できないよね。要するにバカだと思って舐めてる。たぶん、てか絶対。

「でもそれってカレンも一緒じゃん」

給水塔の柱に凭れかかったマヤがそう言った。昼休み。屋上。もうすっかり晴れてる。屋上はホントは立ち入り禁止なんだけど、マヤとカレンで先生にお願いして合鍵作って貰ったの。

「世の中の人たちはみんな自分よりバカだって、そう思ってるでしょ?カレンって」

「え、だってほんとにバカじゃんみんな」

「東大生でも?アインシュタインでも?」

「その例えがもうバカじゃん」

「ほら、マヤのこともバカだと思ってる」

「うるさい。バカ」

「でもマヤもあんま人のこと言えないかな」

や、そんなことわかってるから。カレンのウマスタにいっつも捨て垢で真っ先にブスだの死ねだのアカウント消せだの言ってくるのマヤでしょ。カレンのこと死ぬほどバカにしてんじゃん。まあカレンもマヤのウマッターに引用RTで悪口書きまくってるからお互い様。マヤもそのへん薄々気づいてるよね。ほんとなんで仲良くしてるんだろうねカレンたち。世界で一番しょうもないズッ友(笑)でーす。

「ねーカレン、ヘアオイル持ってない?今」

「ちょうど切らしてるから放課後新宿行く。マヤは?」

「んーパス。寮長に部屋の片付けしないとトイレ掃除やらせるって脅されてるんだよね」

「また?どんだけ部屋汚いの?てかフジキセキ寮長も大概だよね。それ普通に脅迫じゃん」

「そんなに汚いと思うんならお得意の手品(笑)でパパッと綺麗にしてくれればいいじゃんて思う」

「草。それな」

マヤは飲み干したバナナスムージーの容器を校庭めがけて放り投げ、それから屋上を去って行った。てか、空すごい晴れてる。朝の雨が嘘みたい。

秋晴れはちょっと好き。孤独なのは自分だけじゃないって錯覚できるから。

トレーニングするのダルかったからトレーナーに生理って言って抜け出してきた。でもカレンが生理、って口に出したとき、ほんの少しだけトレーナーの口角が上がったの見てたから、それ、気持ち悪いです、本当に。

お兄ちゃん、なんてふざけて呼びはじめなきゃよかった。でもそうでもしないと専属契約してくれなそうだったし。もしカレンがブスだったらどうしてたのかな。ねーお兄ちゃん?

府中駅から京王線新宿行きに乗り込んだら席が空いててラッキー。さっき屋上で撮った自撮りをウマスタにアップ。10秒後には死ぬほどいいねついててゾワゾワする。理科の授業で見た映像みたいだなっていつも思う。ほら、なんか動物の死骸が虫に食べられてくやつ。×100倍くらいで早送りしてるから秒で食べ尽くされて骨になるんだよね。いいねされるのって嬉しいけどたまに怖い。自分の中の痛覚がない部分を食い荒らされてるみたいで。それでもSNSを手放せないのがZ世代なの。ってYouTuberが言ってた。それをTikTokの切り抜き動画で見た。1.5倍速くらいのやつ。これなんの話?

今日はルミネじゃなくて伊勢丹にしよ、とか考えながらiPhoneいじってたら目の前にヤバい臭いが立ち込めてきた。マジ、何?悪臭専用車両?

顔を上げたら目の血走った見るからにヤバそうなオッサンがカレンのこと見下ろしてた。繁華街でナンパしてくる奴も半分くらいこういう感じだな。年相応とかわかんないのかな、わかんないんだろうな。わかんないからこうなっちゃうんだろうな。

「あの・・・えと・・・」

「何」

「僕のこと、見下してますよね?」

「は?」

「僕のこと、見下してますよね、あなた、今」

「いや知らないからそもそも見てないし」

「見下してますよ、見下してますよ」

待ってこいつやばい、パーカーのポケットの中でバール握ってる。ウマ娘だからタイマンなら勝てるけど、バールはさすがにやばい。

周りに目線で助けを求めるけどそもそも近くに乗客いない。たぶん今この電車の中には少なくとも100人くらいの人間が乗車しているはずなのに、カレンの周りにだけは誰もいない。誰かがわざと意地悪してるみたい。やだな、やだな。やだな。

震えてるからオッサンのこと正視できない。どういう容貌なのかわかんない。渋谷で声かけてきたジジイにも似てる気がするしトレーナーのキモバカお兄ちゃんに似てるような気もする。

「おい、聞いているんですか、おい」

ていうかこいつが誰とかどうでもいい。こいつがジジイだろうとトレーナーだろうと300万人のウマスタフォロワーのうちの誰かだろうと、あるいはそのどれもじゃなかろうと。

それが他人であることには変わりない。

とにかくカレンは今から全然知らない他人に殺されちゃうんだ。それがどこの誰なのかを知る暇もなく死んでいくんだ。

あ、なんかすごい孤独だな、今。泣きそう。

無理やりにでもマヤのこと連れてくればよかった。

・・・え、うける。なんでマヤ?男の趣味も化粧の傾向も味の好みも何もかも違うのに。

でもなんていうんだろ、心の歪みの形だけは一緒だよね。表向きどれだけ嫌い合ってても、根っこのところでくっついてる。

今のカレンを見たらなんて言うかな、マヤ。ダサ、とか、キモ、とか、同情なんて絶対しないよね。あームカつく。バカ、ブス。でも隣にはいてくれるんだろうな、本当に嫌い。大嫌い。

「もう嫌なんだよォッ!」

オッサンがバールを振り下ろした。けどカレンの身体能力は天才的だから間一髪のところでそれをかわせた。

いや、ていうか、こんなどこの誰かもわかんない奴に殺されてたまるかよ。

バールがシートにめり込む。私はオッサンを突き飛ばしてバールを没収。オッサンは糸の抜けた操り人形みたいにぐったりしてる。

カレンはオッサンの顔をぶん殴った。一発だけ。弱めに。オッサンは喘ぎながら鼻血を流した。

そしたらオッサンがブルブル震えながら「寂しい、寂しい」って泣き始めた。それでカレンもう殴る気失せちゃった。自分自身を殴ってるみたいで嫌な感じしたから。もしカレンがこんなブサイクで粗暴で脳足りんのオッサンだったとしたら・・・って考えたらなんか寒気した。だって本当にそうだったかもしれないし。

そのあとカレンはオッサンにハンカチ渡してあげた。血拭いたら?って。でもカレンがしてあげられるのはそこまで。あとは自分で立ち上がらないとダメだよ。

オッサンも早くマヤみたいな人を見つけないとね。つまり、えと、繋がらなくても繋がっていけるような人。この意味わかる?わかるならこの先どうにでもなるよ、たぶん。

オッサンは次の駅で降りてった。ペコペコ頭下げて。すごい地味な名前の地味な駅だったな。京王線なんかだいたいどこもかしこも地味だけど。

カレンはオッサンが置いてったバールをネギみたいな感じでハンドバッグに押し込んで、それから穴の開いたシートに座り直した。千歳烏山かどっかでめっちゃ人乗ってきて最悪だった。席全部埋まった。隣のおばさん荷物邪魔。サラリーマン足開きすぎ。iPhoneもずっとブーブー鳴ってる。たぶんウマスタとLINEとTikTok。うるさいから通知OFF。でもアプリ自体は消さないし消せない。Z世代の若者だから。いいね連打は引き続きヨロシク。でもDMはやめてね。消すのめんどいから。

ってそんなことはどうでもよくて、伊勢丹で買うもの調べとかないといけないんだった。あと数駅で新宿じゃん。

欲しいのはヘアオイルとアイライナーとフェイスパウダーと・・・

えっと・・・

・・・何色のリップ使ってたっけ、マヤ。

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