関心領域を見た!
そこそこな長いです!根気のある人、よろしく!
そういえば、関心領域を見た!見た人の話なので、これ以降は全てがネタバレだと思って欲しいです。私が思うに、映画や音楽、小説など時間の経過を伴う芸術というのは驚きが重要だと思います。知るというのは、何で知るかが大切な気がするのです。口伝なんかより、関心領域の内容は関心領域から得てほしいのです。ですので、見てない人は是非とも映画館に行って直接体感してきてほしいと思います。きっといい体験になると思います。
関心領域が題材にするものは、これまで散々映画を始めとして様々な分野で取り上げられてきた内容でした。
関心領域の原題は「The zone of interest」です。「interest」は「興味」や「関心」を意味する名詞です。映画にはアウシュヴィッツ収容所とヘス夫妻(ヘス夫妻という言い方でいいかわからない!)の家が隣り合って出てきますが、その「interest」が何が何に対して何かを考える必要がありそうです。結論から言うと、私が考えるに、興味関心を持つ人は私で、その領域はどちらか一方を指すのではなく両方を指すのだろうと思います。
(米)ところで、奥さん役の人は落下の解剖学に出てた人のように見えました。落下の解剖学はフランス映画だったと記憶していて、A24はアメリカ系だと思っていたのでやや混乱しました。あとで調べたいと思います。
ヘス夫妻の家は、豊かな暮らしぶりで庭も素敵で食べ物も美味しそうで幸せそうです。子供達の幸せそうな声が聞こえます。きっと塀を越えても聞こえるだろうと思います。同じように、塀の向こう側からは様々な音が聞こえてきます。幸せとは程遠いでしょう。アウシュヴィッツで働く仕事熱心なお父さんは、子供達とも休日に遊びに出かけます。優しそうに見えます。なんとも奇妙なものです。
でも、奇妙と思う者は劇中には殆ど出てこないのです。それがまた奇妙に感じるのです。日常的に、塀の向こう側から見える煙や人を殴るような音を聴いていても、その塀という境界に違和感を示さないのです。音とは興味深いものです。例えば、現代社会の日本でも騒音被害というのは深刻な隣人問題に発展し得ます。単純に、それらを騒音として捉えても心地よいものではなさそうですが、それを不快だと問題にするシーンは特にないのです。なので、その奇妙さを強調するかのような、音だけに集中せざるを得ないあの演出は感激しました。(子供がカーテンを開けて外をチェックするシーンがありましたから、心地よくないのはそうなのかもしれません。)
もう一度言いますが、関心領域で題材にしていることはすでに何度も様々なところで取り上げられた内容です。私が感じる関心領域の魅力とは、その題材ではなく、表現方法にあります。音響的にも映像的にもコラージュ的な映画で、非常に美しい構成でした。
ところで、口に出して主張したいことというのは、具体性を伴う気がします。緻密により厳密に話したり、具体例を挙げることにより、具体性を持たせます。そうすれば、言いたいことというのは、言えるようになる気がします。しかし、何が言いたいかということが抽象的であった場合、それは抽象的にしか言えないものなのです。抽象的なものをそのまま直接的に言った結果は抽象的です。伝わりやすさを増そうと具体性を持たせても、結局は受け取り手にその具体性の中から抽象的な要素の抽出を願うことになります。劇中の冒頭部分は、俯瞰的な画角からより主観的な画角へ変化していきます。また、セリフの説明が少ないこと、さらには題名からも、その内容が抽象的であることは想像が付きます。映画はストーリーで成り立つものという特性を考えれば、多少ある具体性から観客が何を受け取るかはいつも任されていることに気付かされます。つまり、厳密な理解というものはないのです。たしかに史実はあるでしょうが、何を感じるかは任されていると考えていい気がしてきます。それに、物事への理解というのはいつでも後からやってくるものです。なんでも咀嚼が必要ということです。
関心領域という映画で私は、その2つの領域に関心を向けてみました。しかし、殆ど人物は互いの領域に対して関心を向け合っていないように感じます。それはきっと同じという感覚の欠如が根底にあります。なのに、同じ靴を履き同じ服を着ます。冒頭で、奥さんはユダヤ人の服を着ています。ポケットから口紅を取り出して塗っています。そこには同じ人間という、理解の可能性を感じます。つまり、矛盾が生じています。関心領域は、感覚の欠如というより、感覚の麻痺を指摘しているように感じました。
その最後が、感覚の麻痺というのは、歴史として見る私にも起こりうることです。感覚の麻痺というのは、繰り返しを招きます。繰り返しは仕方なしだと誰かは言うでしょう。しかし、その麻痺を少しでも和らげ、その悲惨さを2時間の物語の最後に見せることにはとても価値があると思いました。
関心領域は、最高に面白い映画です。見せ方が最高です。痺れます!楽しみにしていた甲斐がありました!もし、まだ見てないのに読んでしまった人がいたら今からでも映画チケットを予約して(最も良い席を予約!良い席というのはスクリーンのド真ん中の席かつ後方より中央寄りの席を指す。)、監督の手のひらの上で転がされる感覚を楽しんでほしいと思います。
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