見出し画像

酷暑の歩き方。裏越後三山 荒沢岳ー中ノ岳ー越後駒ケ岳

2018.7.21-22  1泊2日 30km

2018年の夏はとにかく暑く、周りの山クラスタからは「暑いから山に行かない」もしくは「暑い中歩いて体調が悪くなった」などの声が多く聞こえてきました。せっかくの休みは山に行きたいし、安全に楽しく歩きたい、その場合、通常とは異なる歩き方を試す必要があります。ヒントは残雪期BCスキーでの時間の使い方にありました。春のスキーを賢く楽しむには、日中の強い日差しと昇温による雪質の悪化を避けるため、深夜から行動開始します。パターンとしては、日の出前の時間を最大限活用して移動、日が昇り、雪面コンディションの良い10時頃に滑走。気温が上がりすぎる時間帯はベースキャンプでいったん休み、日差しが柔らかくなる午後3時頃からまた移動&滑走と1日の行動を2分割します。夕方になれば気温が下がり、雪面のコンディションが再度良くなるからです。毎回そうではありませんが、特に気温が高い日はこのようなパターンも選択します。

日差しの強い日中の行動は避けるという意味で、同じような理由から真夏の登山・ハイキングにも応用できるのでは?と考えました。

***

~酷暑対策~

①行動パターン
・深夜発
・10時いったん行動停止
・風通しの良い木陰でビバーク
・15時行動再開
・日没間際まで行動
・夕立、雷の発生時はプラン変更

②気を付けること
・涼しい時間に行動
・強い紫外線を浴びない
・10時から15時の間は行動しない
・水分補給、塩分補給を怠らない工夫
・食欲がなくても食べられるメニューを考える
・必要な栄養素を意識する

***

以下、サンプル山行です

コース:裏越後三山縦走路
荒沢岳→中の岳→越後駒ヶ岳の周回ルート
日程:一泊二日
スタート&ゴール:銀山平

画像1

・1日目
銀山平の登山口から荒沢岳に向けて深夜3時スタート。ヘッドライトの明かりで樹林帯を登り、稜線に上がると空が白み始める。涼しい時間帯に難所を超えて荒沢岳。山頂手前の岩場は集中力もいるので暑くなる前に突破すべき。岩場で両手がふさがるので水筒は取り出しやすい場所に。荒沢岳以降はたおやかな稜線。灰の又山を越え、10時ピッタリに巻倉山手前、水場のあるビバークポイントに到着できるように逆算して歩く。水場で冷水をたっぷり補給。風通しの良い木陰でツエルトをタープ状に張る。食欲がなくても食べられるようなメニューでしっかり食事を摂る。15時まで昼寝。

画像2

画像3

画像4

15時行動再開、中の岳へ向かう。気温はまだ高いが日差しは徐々に傾く。心拍数を上げないようにゆっくり歩く。日が傾き気温が下がるにつれペースアップ。稜線は日が陰れば涼しくなるが最後まで水分補給に気を付ける。18時過ぎ、日本海に沈む夕日と雲海。素晴らしい景色の中歩く。19時、日没ピッタリに中の岳避難小屋到着。水は雨水タンクから。温水シャワーを作り。暗闇の中、小屋の外でシャワー。寝間着に着替え。小屋の中で食事。しっかり休む。

画像5

・2日目
3時起床。朝食後、すぐに出発。朝露に濡れながら越後駒ケ岳へ。シューズは濡れてぐしゃぐしゃ。ロングパンツだと濡れるため、短パンで歩く。服は濡れると乾かないが、肌はすぐに乾く。この日は霧が出て寒いくらい。駒の小屋で早めの昼食。体力に余裕があるのでハイペースで下山開始。途中で霧も晴れ、気温上昇。登山口へ下山。その先の林道は長いが木陰も多いので大丈夫。途中水場もある。ロードに出てから駐車場までも長く、さすがに暑くてキツかった。アスファルトの上は灼熱。ここでは日傘が欲しい。駐車場手前に冷水と自販機あり。じゃぶじゃぶ水浴びしてクールダウン。

画像6

画像7

・装備
日傘を持たない代わりに時間帯をズラす事で紫外線を避ける戦略。夜間行動のため光量の多いヘッドライトとモバイルバッテリーは必須。まめな水分補給のためソフトフラスク系の水筒をチョイス。メインの水筒はプラティパス2リットルと3リットル。小屋の水場(雨水タンク)が使えない場合も想定し多めに持ち運ぶ。小屋泊でもツエルトは持参。小屋泊の場合はロールマットではなく寝心地優先でインフレータブル系のマットを選択する。夕立も想定した雨具を用意。食事に合わせて今回はアルコールストーブ。汗や日焼け止めクリームで汚れた身体を温水シャワーで清潔にしてから就寝する。この時小屋の中にいた他の登山者3名は強烈な臭いがしたので2階に避難。

・食糧
2日分。1日1キロを心掛けてしっかり栄養を摂る。暑さと疲労で食欲が減退し、米は喉を通りにくい。そこで日中の食事はベーグルやナン、トルテーヤなどがお勧め。軽く火で炙ると香ばしく食欲を刺激する。紫外線のダメージでビタミン不足になるためフルーツも忘れずに。ミニトマトなど生の野菜も行動食とし最適。きゅうりの塩漬けなら出発前にジップロックで簡単に作成できる。運動後に牛乳を飲むと暑さへの耐性が増す(血液量が増えて体温調節機能が向上)。山では粉ミルクを持つと良い。乳製品やチーズもお奨め。夜も塩分補給のため味噌ラーメンが定番。スープまで完食するのでインスタントラーメンではなく極力自作の味噌スープを使用。そもそもインスタントラーメンは身体に毒。塩分以外で暑さ対策に効果的な栄養素はカリウムとビタミンB1(どちらも豆、豚肉等)、ビタミンC(キウイ、トマト等)も忘れずに。

画像8

・行動着
基本はウール。体温調節に便利なボタンタイプのシャツ、乾きやすい化繊生地の短パン、帽子、日よけや汗拭きに使うバンダナ、サングラス、蚊対策のメッシュ類、等。寝間着以外の着替えは持たない。

・水分補給のテクニック
水分補給は水だけだと飲むのに飽きるし、汗をかくほど体内の塩分・ナトリウムが不足するため、スポーツドリンク系を薄めて摂取。個包装されたパウダー系ドリンクだと500mlの水筒とセットでこまめに追加作成が可能。水筒はザックのポケットではなくサコッシュやショルダーポケットに。ソフトフラスクだと短パンのポケットにも入る。とにかくすぐに手の届く場所に。疲れてくると所作が雑になるのでルーティーン化が重要。その点、フラスク系は便利。噛むだけで水が出てくる。ドリンク以外でも水分補給が可能なようにフルーツや生の野菜は欠かせない。気分のリフレッシュにもなる。今回のように最も暑い時間帯の行動を避けることで水の消費量(持ち運ぶ量)を抑えつつ、確実な水分補給で脱水と熱中症を防いでいる。水の持ち運びは最低でも2リットル、多ければ午前と午後で4リットルは消費する。1度熱中症になれば回復に24時間以上必要。

画像9

***

自分は過去に1度、炎天下でのスポーツ時に熱中症になったことがあり、その時は体温が下がらず動悸が止まりませんでした。山中で同じような状況になれば致命的です。今回の記事はこれからの夏山シーズンのご参考に。

・裏越後三山について
通常、越後三山といえば八海山、中の岳、越後駒ヶ岳の三山を指しますが、奥只見側から入山し、荒沢岳、中の岳、越後駒ヶ岳を周回するルートを裏越後三山と呼びます。綺麗に輪を描けるため、縦走好きには表側の越後三山よりも裏側の方が人気があるのではないでしょうか。有志のボランティアにより、兎岳と荒沢岳の間のルートが刈り払いされており、近年は快適に歩けます。中の岳、越後駒ヶ岳はもちろんのこと、奥利根エリア最奥地から眺める荒々しい山々のスケール感に圧倒されます。紅葉の時期もおすすめ。スピードハイクやトレランスタイルなら日帰りも可能ですが、中の岳と越後駒ヶ岳には避難小屋があり、どちらも水の補給は可能です。兎岳と荒沢岳の間にはテントが張れる場所と水場もあります。難所は荒沢岳の岩場で、写真で見ると恐ろしく感じますが、実際取り付くと女性でも難なく登れます。関東からだとマイカーアクセスか、時間に余裕があれば浦佐駅からバス利用も可能です。上信越国境付近では「馬蹄形縦走路」や「谷川主脈縦走路」が人気ですが、次は是非「裏」まで足を伸ばしてみてはいかがでしょうか。

画像10


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?