天界の話【壱】

高校生の私が中二病していた時のを継ぎ接ぎし直して、なんとか風呂敷を包もうと奮闘する私の挑戦。

「ねえねえねえねえ!!六姫!聞いてよォ!」

引き戸を勢いよく開け、バキッと不穏な音がする。
顔と瞳を真っ赤にしながら、パタパタと忙しなく羽根を動かしている真っ白な天使が突撃してきた。
「なに」
語尾が上がらず、ハテナマークがつかないような、抑揚のない声で応える。
「由良生が懲罰室1週間の刑だっていうのォ!!酷いわよねェ!?」
キンキンと黄色い声に、両手で耳を塞ぐ。
うん。
丁度いい。
「聞いてるのォ!?」
「あなたの声が聞こえない人が居たら病院へ行くべきだと思う」
「あのね、廊下の花瓶を割っちゃったんだけど!わざとじゃないのよォ!」
チラッと怪しい音を立てた引き戸を見やる。
開けっ放しだ。
果たして閉まるのだろうか。
「ふーん、あなたがわざとじゃなく物を壊すなんて珍しい」
「そォよ〜?最近物を壊すような『イタズラ』はしてないものォ〜」
こいつは、いわゆる悪ガキだ。
可愛らしい顔をして、落とし穴を設置したり爆竹を撒いたり、とにかく危険だ。
堕天させろという声も上がっているが、こいつの力はかなり強く、地獄とのパワーバランスには必須なのだ。
神が甘やかして育てたからこうなったのだ。
「それで、私にどうしろと?」
「だからァ!由良生に言って!私は悪くないから懲罰室も要らないって!」
私は深いため息を吐いて、首を横に振った。
天使の抗議の悲鳴を無視して書類に向き直る。

この世界は、
一つの世界に神がいて、天界人がその下で働き、いくつかの人間界を取りまとめている。
そして、天使はというと、

遊んでいる。

天使は……そうだ、精霊とか妖精と言えばわかりやすいだろうか?
神の方が確かに偉いけど、だからといって天使は気ままに過ごす。
ペットというと言い方は悪いかもしれないが、そんな感じだ。
気ままに人間界に行き、ハートの矢を打ったり、人間に囁いたりしている。
天使の反対はだ。
悪魔は誰かに命令されて人を陥れているのだろうか?
きっと、各々の私利私欲のためにやっていると思うだろう。
否。
悪魔は閻魔様が統括し、取りまとめている。
天使とは逆だ。
え?宗教がごちゃごちゃ?
そういう世界なんだ。
諦めてくれ。

あーつかれた。
伸びをする。
あの天使は憤慨しながら窓から飛び去った。
頭が熱い。
「六姫様!こちらにミント様はいらっしゃいませんでしたか?」
今度はドタバタと男の子が入ってきた。
齢は17歳程に見える。
小柄で青白い肌以外黒づくめだ。
由良生だ。
「居ない。さっき窓から逃げた」
由良生は、はぁ〜と深いため息を吐いた。
ナイスタイミングだ。
「そんなことより、プリンは?」
「あ、…ええ。お持ちしましたよ」
甘味が来たので仕事はひとまず休憩する。
「それで、ミント様はなんと仰っていましたか?どちらの方へ行かれましたか?ミント様が一番大事な部分の破片を持っていっちゃって復元魔法が使えないんですよ。大体ミント様はいつも物を壊してばか────」
休めの体制で仁王立ちしながら矢継ぎ早にまくし立てる由良生を制止する。
「今に始まったことじゃないでしょ。諦めて。神様だってミントがやったって知れば大丈夫でしょ。というか座りなさい」
「いえ、大丈夫です。ミント様は今回も無実だと言うでしょうね……神は甘やかし過ぎです!!そっか〜しょうがないねぇ〜って猫なで声で許してしまいます!そんなのダメです!」
「罰したって、可哀想だからって、すぐ釈放でしょう。意味無い。座りなさい」
「僕は大丈夫です。だから、誰かがキチンと叱らないといけないんです!」
「一緒にプリン食べましょ。立ったままなんて行儀悪い」
「…………わかりました」
こいつは、甘いものが好きなくせに、一緒に食べたがらない。
私が独りで食べるのは嫌だからと無理強いして初めて食べた時のあの表情は忘れない。
毎回思い出してしまう。
というか、毎回あの顔で食べる。
私はにやにやしながらこの顔を見るのが好きだ。

平和だった天界の話

雨螭

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