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最初の3歩だけ、走る

中高のサッカー部時代、試合前だけ、やっていた練習がある。

寒い冬の朝、人もまばらな他校に乗り込み、もうすぐ試合だとしよう。冷えた空気と試合前の緊張で少しピンと張ったムードの中、試合前の練習が始まる。

そこでは普段と同じく「基礎」と呼ばれる二人一組でする一連のシンプルなパス・トラップ練習や、ゴールを使った「シュー練」などをした後に、最後の最後に「ダッシュ」をする。体のエンジンに薪をくべる。

これが違った。

普段の練習より、ずっと短くインテンス。10数メートル程度を走る。一列に4人並んで(よーい)後列1人が手を叩く(ドン!)に合わせダッシュする。

そこでコーチが横で声を上げる。
「最初の3歩だよ!」と。

よーい、ドン!から、シャ、シャ、シャ!の3歩(冬場は皆、シャカシャカ言うズボンを履いている)10数メートル全部でさえなく、最初の3歩だけ。

この3歩を全力で力を込めて、腕を振って、走る。それだけ。そこからは流していい。走り終えたら、ジョギングでまた同じ列に戻る、これを数本繰り返す。

***

振り返れば、この練習には2つの意味があった。

1つ目は、まず疲れないこと、
2つ目は、試合中の刹那に動けるようにすること、

サッカーは、チームスポーツであり戦略や戦術も重要だが、目の前の相手との対峙も至るところである。そして究極、この目の前の敵との勝負(1対1)で勝てない相手には、やはりチームで勝つのも難しい。

例えば、守っている時なら、自分がマークしている敵のトラップが乱れて、体からボールが離れた”瞬間”、狩りにいく。
例えば、攻めている時なら、味方にパスを出して、自分をマークしている敵の視線がボールの先へと切れた”瞬間”、加速して振り切る。

そんな瞬間逃さず、素早く動く。よっこらせではもう遅い。突然の好機に、ドン!で反応して、その刹那で勝つ。

そのための「最初の3歩」の意識付けだったのだと思う。

旅人Nami

この秋頃に、旅人仲間のNamiに再会した。

2年半前にキューバで会った時には独身だった彼女も、今は結婚して妊娠し、安定期に入って暇してる、というタイミングらしかった。

Namiは旅フリークで、旅するために生きているような人だ。何でもこれまで72カ国もを旅しているらしい。身の上話などになり僕も、今はある意味似た環境(要は無職)にあるよ、という話になった時の、彼女のリアクションは敏にして、端的だった。

「めっちゃええなー。マサ君、旅しまくれるやん!」

この人は、隙さえあれば旅をする。日韓関係が悪化し、航空チケットが安くなると見るや否や、渡韓する。そのタイミングにババっと動いて、先の予定を決めてしまう。

衝撃的だった。旅人としての器に?いや、そうではない。その生き様の清々しさにである。自分のしたいことが明確で、いつもそれを狙っている。好機と見るや脇目も振らずに動いて仕留めてしまう。

かたや、どうか。

意味に囚われ、随分と腰が重くなってないか。一体何が目的で、東京に張り付いているのか。それって楽しいの。おいしいの。

自分が、随分と鈍くなってると感じた。

***

1週間ほど前、通常時より少ないマイルでチケットが取れるキャンペーンを見つけた。そして僕には、今週、特別な予定のない火曜日から金曜日までの4日間があった。

Namiに習って、心で唱える、よーいドン!
ほんの数分、クリックだけで済む作業。

そして昨日、北海道の旭川に着いた。
なんと容易い別世界。

最初の3歩は、疲れない。


よくぞここに辿り着き、最後までお読み下さいました。 またどこかでお目にかかれますように。