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この門をくぐる者は(2024年3月7日(木)の300字小説)

 彼氏と会社帰りに飲むことになった金曜の夜。待ち合わせの駅前で、彼は真新しいスーツにスマホににらめっこをしていた。
「どしたの?」
「明日の研修内容の確認してた」
 彼は今年、来年度に入社が決まっている。私はひとつ年上だ。大学を卒業した彼は、今は会社の研修期間だった。
「なんか社会人としての心構えとか教えてよ、リエ先輩」
「そうだな~。『この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ』」
「笑えない~」と彼は笑った。
「でも、社会人も悪いことばかりじゃないよ。仕事終わりのビールは美味しいし」
「そんなん働いてなくてもビールは美味しいじゃん」
「屁理屈を言うな」彼の頭を小突くふりをする。
「でも、まあ頑張って」
おしまい

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