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憂鬱の構造 - アーロン・ベック

前回紹介したエリスの「イラショナル・ビリーフ」とあわせて覚えておきたい概念が、認知療法(Cognitive therapy)の確立に偉大な足跡を残した精神科医のベックの「歪んだスキーマ(Cognitive distortion)」です。

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歪んだスキーマの6分類

人間は生きているうちに、経験に基づく固定的な情報処理の枠組みともいうべき「スキーマ(schema)」を身につけていきます。そして、そのスキーマを用いて、日々の状況や出来事に対処するようになります。その、瞬間的に頭をよぎる思考を「自動思考(automatic thought)」と言います。

ダニエル・カーネマンが著書「ファスト&スロー」(読みやすく、学びの多い名著です)で ”速い思考” と呼んでいるのもこれのことですが、日常生活で大半の判断を司るその自動思考が妥当なものである限りはよいのです。

しかし、そのために期待と現実の間にずれが生じて、イライラしたり、落ち込んだり、家族や同僚に不機嫌に接したり、健康を害したりと、なにかしら心身に軋みが生じてしまうようであれば、それは本人にとっての不都合を生じる「歪んだスキーマ」だということになります。

ベックは「歪んだスキーマ」を6つに分類しました:

★選択的抽出(Selective abstraction):物事の全体を見ようとせず、一つの要素を取り出して、選択的に偏ったものの見方に固執する。

分極化志向(Minimization):肯定的な思考・感情・出来事の重要性を貶めて考える。「そんなの意味がない…役に立たない…失敗だ…」

自己関連付け(Personalisation):実際はコントロールできない事象についても、自分の責任だと思い込む。「これはわたしのせいだ…」

恣意的推論(Arbitrary inference):根拠が不十分であったり、時に根拠などなくても、結果を決めつける。「どうせ…なるにちがいない」

拡大解釈・過小評価(Magnification):物事のサイズ感を無視した評価を下す。「それは富士山じゃなくてモグラの山ですがな…」的な。

過度の一般化(Over-generalization):一個の出来事を拡大解釈して、なんについても極端な結論を出す。

うつ病自己評価尺度(BDI)

ベックは、うつ病に対して投薬療法ではないアプローチをするための基礎理論として認知療法を確立しました。うつ病の診断ツールには様々なものがありますが、その最初のものとも言えるBDI(Beck Depression Inventory)を開発したのも、ベックです。

投薬を必要とするようなうつ病の患者さんの対応は、キャリアカウンセラーにとっては専門外の領域。倫理規定上、そのような恐れのある場合は、ご本人の了解を得たうえで専門医にリファーしなければなりません。

ただ、社会の中で生きるに支障なく、BDIリストでゼロ点を取るような心の健康優良児であっても、「歪んだスキーマ」そのものについては、ある程度思い当たるというか、「わかる」のではないでしょうか。

いつまでたっても足を引っ張る思春期のおもひでとか。持続性はなくても、落ち込んでどんよりした気分に捕らわれている時の思考とか…。

認知的ネガティブ・トライアングル

ベックは、うつ病の発端というのは、幼少期から思春期にかけて経験的に取得された「歪んだスキーマ」が、何かの拍子に…それと似た状況や経験があったりして…活性化されることだとしています。そうなると、人は以下3要素の認知的ネガティブ・トライアングル(Beck's cognitive triad)に陥った状態になってしまいます。

1.自分自身(わたしには価値がない…)」

2.自分を取り巻く世界(誰もわたしを評価してくれない…)」

3.自分の未来(この先も何も変わらない、絶望的だ…)」

そこに閉じ込められてしまうのは、本当に、しんどいでしょう。程度の差はあれ、その気分を、誰もが知っているのではないかと思います。

誰しも時には落ち込むことは否めない。ただ、「あー、いまハマってるな」ということを自覚して、そこから素早く抜け出すこと、そのための手段をたくさん持つことが、楽しく生き抜くコツなのだと思います。

キャリアコンサルタントは精神科医ではありませんが、時には、自覚しきれない歪んだスキーマ故にグルグルと同じところで回ってしまっている、未病の人にとっての杖になり、自律的な意思決定を促すことを助けることもある仕事ですから、誰しも足をとられやすいものとして、この枠組みをよく知っておく必要があります。

これを書いているとGorillaz の feel good を聞きたくなってきました。そもそも憂鬱な歌には憂鬱を癒す効果があると思うのですが、一言で言えばそれは共感されている感じなのかもしれませんね。

どなたさまも、ハッピーなライフキャリアを。

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