夏。
この季節になると、田舎の実家ではボーボー伸びはじめる雑草をこまめに抜かないと庭の芝生が大変なことになったものだが、その事情は水の中の植物たちにとっても同じようだ。
水草たちは恐ろしい勢いで増殖し、小さなアクアリウムを埋め尽くす。毎週カットしないと、ドジョウがまっすぐ泳ぐことができないどころか、水平に休むこともできなくなって、水草の隙間に垂直にささってたりする。それも居心地がいいのかもしれないけど、初めて見るとギョッとする。
そして熱帯夜が訪れると、夜中にエアコンを消した部屋でぬるくなる水を嫌って、ミナミヌマエビがぴょんぴょん跳ね出す。うっかり蓋を閉め忘れると、朝になって、亀のコータスが喜ぶことになる。水槽の周りにできあがっている新鮮な?エビの干物にありつけるからだ。
そのコータスなんだが、先日、夜中に脱走した。水槽の中に姿がないのをみた時には、慌てたよ。
浄水器を足掛かりに、うまいこと水槽の縁を乗り越え、下の台もあわせると60センチほどのところからダイブたようだ。それをものともせず・・・リビングを横切り、廊下をまっすぐ歩き、風呂場の隅で見つかった。
甲羅サイズが5センチくらいの小さな亀ながら、首と足を伸ばすとかなりデカくなっているということに気付き、水位を少し低めに調整した。が、数日後に再び水槽から姿を消し、こんどは、玄関の荷物置きの下まで遠征していた。
ネットで調べたら、水棲の亀の「脱走」に悩む飼い主は多いようで、どうやらその解消法として、週に2、3回、意図的に水槽から出して「散歩」をさせるというのがよさそうだという結論に至った。
何を求めてかは知らねども・・・彼を突き動かすのがリビドーだとしたら、ごめん、その夢を叶えてあげることはできないけれど、コータスは自らの意思で出たのだ。狭い水槽を。
犬だって散歩は大好きだもんね。運動不足解消にはなるだろう。
彼らは・・・亀は、みんなに思われているよりもだいぶインテリジェントな存在なのだと、私は感じる。
本来は北アメリカ大陸の豊かな川の片隅で、季節の日差しを感じ、水流の変化をその身に受け、巨大な魚や鳥を警戒しながら、小さな貝やエビを追って仲間達と暮らしていた種族なのだ。
それを、こんな東洋のコンクリートジャングルに連れてきて、小さなガラスの箱に閉じ込めて飼っているのは、失われし大地との絆の片鱗を求める都会人のエゴに違いない。ごめん。
でも 君と私は スカイツリーのペットショップで出会った。
いっぱいいる赤ちゃん亀のなかから、君に決めた。
私が君に与えられる自由なんて、ほんとにガッカリするくらいちょびっとだけの自由でしかないけど、2回も脱走した君の意思に応えたいと思う
だから
散歩だな、コータス。