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菊池寛の短編『形』(天牌外伝より)

"昔、摂津の国に、中村新兵衛という侍大将がいた。彼は『槍中村』と呼ばれるほどの大豪の士として恐れられ、戦場では常に真っ赤な羽織と金色の兜を身に纏っていた。その鮮やかな衣装を見ただけで誰しもが逃げ出したそうだ。

あるとき初陣の主君の子が新兵衛に「もしよろしければその羽織と兜と貸してもらえぬか」と言ってな。新兵衛は兜に負けぬ働きをしろと快諾した。若者は期待以上の働きをし、それに続けとばかり新兵衛も敵陣へ突入した。

黒革縅(おどし)の鎧と、南蛮鉄の兜を被った新兵衛を、敵は新兵衛とは知らず、次から次へと経験したことのない強さで襲って来た。後悔が頭の中をかすめた時に、敵の槍が彼の脇腹を貫いていた"
(天牌外伝25)

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