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[2000字エッセイ#10]生存報告、9月版

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 知らない間に、夏が終わった——などと書くことが全くはばかられるほど、10月9日の外気は異常なほど暑い。3年前から実地での開催がされず、オンライン開催が維持されている学会へ出席するため、デスクトップPCの電源を入れ、10月にも関わらず部屋のクーラーをつける。今年の夏はクーラーをつけっぱなしで過ごしていたこともあり、電気代が心配だったのだが、まさかその心配を10月になってもしなければならないとは、夏ごろの私はおそらく思ってなかっただろう。私に請求書の心配を課すような上っ面だけの季節なら、早く秋になってほしいものだと節に願うものだ。

 9月から10月という時期は、思えば常に何か忙しさに駆られていた時期だったと思う。2年前の丁度この時期に私は学会発表に向けて準備をしていたところ、たまたま同じ日程で台風が学会開催地の東京に上陸する知らせがあった。東京に向けてかなりの時間を割いて用意した学会の準備は、台風とともに消し飛ばされてしまったことは今となってはなんだか懐かしい。もしあの時に東京に行けたら、私は人生で2度目の東京をさぞ満喫していたのだろうか。昨年は学会参加にとどまったものの、大学でもろもろのイベントを企画開催するにあたって、多くの時間を割いて多方面の人々に連絡を取っていたのを記憶している。学生にとって9月は夏休みであるはずなのだが、多方面との連絡に追われていた私には、どこか遠くの療養地に出かけた記憶などなかった。

 では、今年はどうだったろうか。結論だけ述べると、2021年9月に私を待ち受けていたのは、明らかに時期を逃した就活たちだった。詳細を述べることができないが、実は次年度より大学教員をしないかという話が、8月末に何の前触れもなく私のところに転がり込んだ。一見するとかなりすごいのではないかと思えるが、しかしながら、そんなうまい話でもない。次年度から教員となり、学生に単位を授ける身になる私の月給は、最低で2万円台である(1コマあたり)。とてもじゃないが生きていけない。家賃をどう払えというのだろう、なんて愚痴の一つでも出そうな気もしなくもないが、しかし大学で教員をするというのは私の長年の目標の一つだ。その成就のためなら、月給2万円台でもなんとか生きていこう。だが家賃は払えない。このままではまるで高学歴ワーキングプアまっしぐらである。せっかくここまでいろいろ勉強してきて、学費も自分で払って、それに見合った対価を何も手にすることができないのならば、それは全く悲しき話でしかない。だが、やはり家賃は払えないのだ。

 かくなるうえは就活だ、ということで、8月に急展開を迎えた私の人生はリクルートスーツに包まれ、手元の本は一時的にエントリーシートへと変貌した。せっかく芸術学をしているのだから芸術系に行きたい、そんなことを考えつつ、教員としての仕事ともうまくバランスを取れる仕事を選択しなければならない。だが、多くて週2日の勤務となる大学教員に追加して週5日のフルタイムを入れようものなら、私の出勤スケジュールはたちまち週7日になってまう。過労死まっしぐらだ。週3、週4日で勤務可能かつ芸術系の仕事も見つけたが、そういったところは大体落とされるのが常態だった。結論を言うと、就活は失敗に終わった。

 私を落とした企業に対してヘイトなど向ける気にもならないし、そんな時間があればエントリーシートを書いていた。そもそも文系の大学院生で、大学では毎年の如く大規模なイベントを開催していたこともあったので、エントリーシートに数週間も悩むことは無かった。したがって、面接上で何度も聞かれた出勤スケジュール上の問題が、やはり大きかったのだろうなと思う。何せ、週7日も働いている奴だ。私が面接官だったら落としている。

 かくして、来年以降の予定は暗闇のまま、まるで蝉の最後の足掻きのような夏の暑さを残したまま、表面上だけは秋が到来した。今年も学会シーズンだ、と思いながらオンライン学会に参加する準備をする。予定時間まで少し時間があったため、YouTubeを開いた。昨日見ていたスマブラの参戦動画が目に入り込む。キングダムハーツは小学生のころに良くたったし、レベルは99だった(それでもキングダムハーツⅡの裏ハデスカップはクリアできなかった)。ソラ参戦おめでとう、願わくば私の闇に包まれた来年以降のスケジュールに光をくれ、とくだらないことを思ってしまったが、そんな他力本願ではいけない。助けてもったところで結果はなるようにしかならない。だからこそ、とりあえず動き出すのだ。「鍵が導く心のままに」である。


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