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[2000字エッセイ#4] 「再生回数を気にするな」とみんな言うけれど

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 外出する気力の一切を到来した梅雨で奪われてしまい、連日自宅に引きこもっていた。もっとも、外出自粛の空気感が未だに残っている中で、それは適当な選択かもしれない。そんな中、今日はたまたま天気が良かったため、洗濯物を干し、食糧調達と牛乳パックのリサイクルを出して、私は大学に向かうのであった。8階建ての最上階にある住居は高所だからか若干蒸し暑く、熱を吸収して熱くなった午後3時のアスファルトも、自分の部屋を比べてみたら少しひんやりしているように思えた。自転車で西に向かい、スーパーで牛乳パックをリサイクルボックスに入れたあと、Twitterから来た「おすすめツイート」の通知を見た。一度自分が興味を持ってリンクを開いたら類似する内容のツイートを相次いで表示してくるようで、ここ数日の私に対するおすすめツイートの多くは、動画再生回数についての議論だった。

 「自分の作品は自分のためにあるのだから、再生回数など気にせず自分の作りたいものを作ればいい。」そういった話は、昔からあった気がする。パソコンとスマホに触れたことの無い人が絶滅した現代日本社会で、動画投稿サイトはテレビの立ち位置に君臨し、テレビ局に代わって多くの消費者=動画投稿者が動画を投稿することで人気を競い合っている。誰しもが投稿者になりうる状況は、一方でほんの些細な投稿から突然人気になることも可能にしたが、多方で再生回数のためならどんな手段も厭わないような、過激な投稿者も生み出してしまった。相次ぐ自粛要請によって多くのイベント開催に圧がかかる今、動画投稿サイトの可能性に対する注目がこれまで以上に注目が集まっていることは、誰しもが感じているだろう。

 そんな中、投稿者たちが再生回数と自己表現の問題に行きつくのは必然のことだと思われる。私たちが情報提供を希望する/しないに関係なく、私たちがネット上で見たり楽しんだ記録は常に、データとして他者に提供されている。それはTwitterのおすすめ機能であったり、YouTube上での人気な動画傾向であったり、さまざまな形をとってきた。それらを利用することで、私たちは多くの消費者にとってどのような動画が人気になっているかを調査でき、そして自身の動画に反映することで「(理論上)伸びる」動画を作成する手法を手に入れてきた。しかし、そのような動画は一方で視聴者に媚びを売っていると批判され、他方で投稿者自身が抱える理想との乖離による内面的葛藤を生み出した。「あまり再生回数を気にしてはいけない」という主張は、この問題を上手く反映しているように見える。過度に再生回数ばかりを意識せず、自分の好きなことがし続けること。それで十分なのであれば、動画投稿サイトは理想的な環境かもしれない。

 だが元も子もないことを言えば、コンテンツを作り公開表現をする目的が自己表現であり、願望充足であるのなら、それらは特に動画投稿サイトに投稿する必要はないだろう。ニコニコ動画上で公開しているボカロPのオリジナル楽曲たちの多くは、だれに向かって公開されているのだろう。ユーチューバーはなぜ動画を作っているのだろう。自分に向けてだろうか。だとすれば、それはなぜ世界中に向けて公開されているのか。こういった問題を無視しながら「再生回数を気にしすぎてはいけない」と主張してしまうのは、たとえその主張の真っ当さがあったとしても、何かしら屈折した印象を抱かざるを得ない。その内容の独創性、作者の特別な表現の有無に関係なく、動画投稿サイトにて自己表現を行うすべての投稿者はすべからく「動画投稿する欲望」に突き動かされている。私たちはみな「見られたい」欲望に駆動され動画を投稿し、そして見せたくない動画を非公開設定にする権利も持っている。

 こうした内面的欲望を無視して、私たちは動画投稿をすることはできない。なぜなら、動画を伸ばしたいという欲望の根本には、それはあらゆるデータが抽出可能になり、累積したデータの山から「売れる」ものを用意に作り出せるようになった今日のインターネットがあるからだ。ボーカロイドに限定されず、多くの投稿者は伸びる動画・伸びる音楽を作るため、サムネイルや曲調などの傾向を分析しながらコンテンツを組み立てていった。しかし、そのような表現自体、蓄積されたデータベースによって与えられた欲望によるものだ。私たちはそう言った環境で自己表現を繰り返しており、それはもちろん、文章投稿サイトに掲載されたこの文章も同様だ。今一度、データベースから脱却して「新しい」ものにいたる方法を、私たちは考える必要があるのではないだろうか。

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