明日の化身

驚いた。夜なぜか不意に目を覚まして、自分の腹が光っていることに気づいた。

それは小さな子どもだった。

幼い顔立ちを際立たせているのは顔の中央の小振の鼻である。それと反比例して黒目がちの大きな目が私を真っ直ぐ見つめている。

服は着ている。和服のようにも見えるが裾の丈は短く細い脚がのぞいている。私の小指ほどしかないが。

「君は一体?」

「私はアシタ」

あしたという言葉が頭の中を回る。

「アシタって明日のこと?トゥモロー?」

「そうともいうね。私は明日の化身」

私は正直戸惑った。夢をまず疑った。

しかし、夢ならもう少し夢らしくあって欲しいものだ。哲学めいた言説は現実でも持て余すほどなのだから。

まじまじと眺める。可愛らしい顔をしているが、その目には賢さと形容するのも憚られるほどに高潔な意志が見えた。

「アシタは明日僕に何があるかわかるのかい?明日の化身なんだから」

「それは無理だよ。そうゆう役割じゃないんだ」

アシタは腹の上をぴょこぴょこ駆け回る。アシタから放たれる光は白く部屋中を照らす。

見たくないものが見えてしまった。汚れたカーテンと放り投げられたカップ麺の容器の山。裸の女が表紙に色っぽいポーズをとる雑誌。

玄関までの通路はそこに通路があるのがわからないほどにゴミが積載されている。

そして青白い腕がゴミの山から突き出している。

押入れからは何から染み出しているのかわからない液体がじわりと流れ出ていて、鈍く赤く光る包丁は畳にだらしなく突き立っていた。

そして、天井からは一本のロープ。そこには僕がぶら下がっている。

「ああ、そうだったね」

「うん、そうだよ」

「じゃあ僕はそろそろってこと?」

「明日が来ない人はアシタを夢見る。そこのゴミの中の人もきっと」

「ああ、彼女はかわいかったね」

「それについて意見は持っていない。君の行為が良いことか悪いことかは人間が決めることだしね」

僕はだらりと立ち上がった。腹の上で腰を振ってダンスをしていたアシタは床に降りる。

「もういくかい?私はいつでも良いんだよ」

「でも急がないと明日になっちゃうよ?僕は僕の死体が腐っていくのは見たくないな」

アシタは腹を抱えて笑った。

「何言ってるの。君に明日はもう来ない。僕が君を連れていくから」

まわりまわって、世の中が幸せになる使い方をします。