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面白い話① ベリーショートショート

とある村に一人の男がいた。
男は泥棒だった。
村に来る旅人相手にスリをして日銭を稼いでいた。

その日も一人の旅人が村にやってきた。
風体は少し汚らしいが、腰にジャラジャラと音の鳴る皮袋を提げていた。これほど狙いやすい獲物はいない。
男はすれ違いざま、躓いたふりをして旅人とぶつかり、その袋を盗んだ。

「1ヶ月は暮らせそうだ」
男はにんまりと家へ帰っていった。

実は、その旅人も泥棒だった。
しかし、旅人は男の金も、持ち物も盗んでいない。盗んだのは男のスリの技術だ。
旅人はわざと金を盗ませ、男の盗みの技術をじっと見て盗んでいたのだ。

そしてこれは初めての出来事ではなかった。旅人は、盗みの技術を高めるため、沢山の村や街で盗みにわざと会い、盗みの技術を上げていたのだ。

1週間後、ある男が王宮の宝物庫から大量の宝石を盗み出したと国中で話題になった。
その男は素晴らしい技術を持っていて、足跡一つ残さず、一瞬で宝石を盗み出したらしい。
 腰に皮袋を提げていた小汚い身なりの男を見たものがいるとかいないとか。

兎にも角にもその盗っ人は一生分の財宝を手に入れて姿を消した。

村の男は今でも旅人相手に盗みを行い、日銭を稼いで生きている。

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