ノートと少年

 ノートの端を噛む子供だった。ほとんどのページに歯形が付いていて、時には涎もついてしまい、よれよれになっていた。「きたないきたない」と言われても、どうにも止められなかった。
 ランドセルはリュックに変わり、今度は水筒から麦茶をこぼして、ノートをよれよれにした。やがて、麦茶はコーヒーになり、年齢とともに深みを増した皺と滲みを作るようになった。
 頑張って働いた分、少し奮発して買ったペンはまだ少しひんやりとしていて、思わず姿勢を正した。馴染みのノートを開く。その時、私の指先は少年時代へと回帰する。ノートの味や、麦茶の香り、コーヒーの淀みを経て、インクが紙に染みていく。

(300字ショートショート『ノートと少年』)

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