愛とケーキ

「ケーキ買ってくるから」という言葉がだんだん特別じゃなくなってきた朝。ちょっとしたことで私が怒ると、彼はいつもそう言って逃げるように仕事に向かう。

 ケーキを買えばいいってことじゃなくない?、と問い詰めてしまえばもう終わりなので、ぐっと堪える。いつもいつもケーキ。ケーキを2つ買ってきて、好きな方を私が食べている姿を見て、許されたつもりなのだろうか。

 ムカムカしながら湯を沸かす。お気に入りの茶葉を茶漉しに入れて、湯を注ぐ。紅茶と一緒に怒りが湯に溶けていく。

 心をうまく言葉にできなくて、小さなケーキの形となった愛を捨ててしまうのは、さすがにもったいないから、今日も紅茶を淹れる。

(300字SS『愛とケーキ』)

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