本気の円陣
ワールドカップが始まったらしい。
ワールドカップが四年に一度開かれるサッカーの大会であることは知っているけど、それ以外は何も知らない。
ちょっと前に「なんか毎年かなりの回数「ワールドカップ」って言葉を聞いてる気がする、四年に一度の大会のわりに頻出単語すぎる、なぜ」と友達に言ったら
「まあそうだね、2019年から今までずっと、2022年の大会に向けての予選大会し続けてるしね」
と言われ、初めて予選をワールドカップが始まってから一斉にやっているのではないことを知った。
2018年大会を終えてから、たった一年しか経たないうちに皆また次のワールドカップに向けて戦っていたのか……。3年後に自分がまたワールドカップに出るつもりで?すごすぎる……その己の体力と健康への信頼、不屈の精神が……
サッカーに限らず、プロスポーツ選手は自分の頑張りに突然日本中の期待をかけられて、負ければいろんなことを言われるのに、すぐに立ち上がってまた次の大会に向かうの、すごいね。
私が選手だったら即心が折れている。眉の下がった笑顔で「力及ばずでした」とインタビュアーに答えたあと、家に帰って酒飲みながらTwitterを開いて負けに文句垂れてる奴全員ブロックし、トイレでケツをウォシュレットしながら情けなさでさめざめ泣くでしょう。
これまで野球、バスケットボール、テニス、バレーボール、ボクシングの漫画にはハマったことがあるが、サッカー漫画にはハマったことがないのでルールがよくわからない。
わかるのは、ボールを相手のゴールにシュゥゥゥーーで超エキサイティンなこと、キーパー以外手を使ってはいけないこと、オフサイドという反則があることくらいだ。
だが、オフサイドが一体何の行為を指す言葉なのかは、未だわからない。
歴代プレイしてきた「イナズマイレブン」というサッカーゲームで、土煙に紛れてゴールをずらしても、スライディングと称して相手チームの足を連続蹴りしても、フィールドからペンギンを生やしてぶっ飛ばしても反則にならないのに、ただ普通にパスを出しただけのつもりがオフサイドオフサイド言われていたので、オフサイドは謎が多い、何か極悪非道の反則なのだとは思う。
今年は職場の人がサッカー好きなので、職場のテレビでワールドカップの試合を目にすることが多そうだ。
今日の仕事の間だけでも
「出場チーム数は32」
「カタールのスタジアムを建てるのに労働者が60人くらい亡くなったらしい、この大会はその屍の上で行われている」
「日本は2018大会でかなり勝ったから、今大会はたぶん予選落ちだと思う。ワールドカップと日本にはそういうジンクスがある。勝ったあとは負けるの」
など多数の情報をぶん投げられたため、このカタール大会が終わる頃には上っ面の関係の人と世間話ができるくらいの上っ面の知識は得ているのではないかな。
でもさあ、とりあえず今日テレビを見てみた中で私がワールドカップにあーいいじゃんって思ったところ、いちばんは選手たちが円陣組んで皆で気合い入れてるところだったな。
円陣、私も組みたいな。
大人になってから、人目もはばからず、恥ずかしいという気持ち一切なく、皆でひとつの物事に向かって気合を入れて肩組んだこと、ある?
「やるぞ!」とか「勝つぞ!」とか、そういう本気の気持ちを込めた叫びに、隣で肩組んでる奴が「オオ!」って応えてくれるの、ちょっと嬉しすぎるだろ。
これまで話したとおり私はまったくサッカーに熱心じゃないので、スタジアムで観戦!とかスポーツバーに行って応援!は一切したことがない。
けど、あの選手たちの円陣を見ていると、スポーツバーに行ってお祭り騒ぎで応援したくなる気持ちもわかる。
あの円陣の、恥ずかしげのなさのおこぼれをもらいたいのだ。
本気で円陣を組み、ゴールを決めるたびに熱い抱擁を交わし、勝って笑い負けて地面を殴る青いユニフォームの彼ら。私は頬に国旗のペイントをして、知らん人たちと同じテレビ画面にかじりつき、ゴールを決めれば皆で歓声を上げ肩組み、決められれば落胆の声とともにヤケ酒をあおる。誰も「こんなことにいちいち落ち込んでんの?」とか、言わない。
いいなあ、私も円陣組みたいな〜。
就勤時に職場の皆と円陣組もうかな。今日も実績上げていくぞ!オー!つって。バックにKing Gnuの超かっこいい曲流されながら。
まあうちの職場の人間関係など基本かなり悪なのですが、サッカー選手だってたまたま同じチームだというだけで全員仲がいいとは限らないし、それでも円陣さえ組めば一体感は生まれるんだろうから、とりあえず円陣だけでも組もう。恥ずかしがらず。熱を込めて。そしたら仕事も頑張れるかも。
ないな。これからも互いに関心を持ちすぎず、適度に温い心でいきましょう。それがビジネス。
でも、いつか組みたい。本気の仲間と、本気の円陣を………
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